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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第92回

金髪ギャル語でニュートリノ、Shoさまが熱い!

2011年04月27日 12時00分更新

文● 古田雄介(@yskfuruta) 写真● 住川奈津

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プロとしての責任を果たすべきだ

―― 多田さんのそういう本音のところが、3月11日以降の日記に強く出ていますね。特に、原発問題でのマスコミの情報の伝え方についての問題提起が興味深かったです。

多田 あれはね、ニュースを基にしているんですけど、放射線に関する説明があまりに中途半端でたまらずに書いたのが理由のひとつです。今回のことがなかったら、放射線のことなんて何も知らなかった人が多いわけでしょう。

 そこに何の説明もなしに「シーベルト」や「ベクレル」みたいな単位を出されても意味が分からず、不安を煽るだけでしょ? そういう中途半端な情報から余計なデマに火がついて、不確かな情報を「拡散希望」する人も増えるし、さすがにひどいと思ったんですよ。

 もうひとつは福島に住んでいる友人が、そういう報道やあいまいな政府発表で不安を感じていたから。いい加減な情報に振り回されないようにちゃんと書いてみようと。


―― その憤りが爆発したのが3月15日の日記でしたね。

多田 あれは、石原都知事の「天罰」発言にカチンと来て書きました。今でも許せない。もちろん発言は反感を買ってましたが、匿名の書き込みでは、「気持ちは分かる」という本音を書き込んでいる人も少なからずいたんです。

 いや、僕もどこかの知らないおっちゃんが言うなら気にしないですけど、都民の圧倒的な支持を受けて知事やっている人間が発言した、つまり都民の言葉なわけでしょ? 実際に被害を受けた福島県民が天罰と言うのならともかく、安全な東京で電気をもらってる立場の人間が、自分たちの地域には送電されない原発のせいで危険な目に遭ってる福島の人たちに向かって「天罰」だと。それに本音で同感している人がいるのも頭に来るんです。

3月15日に5連発で載せた日記。ギャル文字の体裁はキープしつつも、石原都知事の問題発言に始まり、菅首相の東電叱責、マスコミの報道姿勢、買占めする一部の都民に対する怒りを連投した


―― その中で特に興味を引かれたのは、中途半端な報道に対する怒りです。多田さんはJ-PARCの見学会でも一般向けイベントでも、ニュートリノのことを分かりやすく伝えていますよね。テレビも一般視聴者に向けた分かりやすさを意識しているとは思いますが、違いはどこにあると思いますか?

多田 「伝える本人が理解した上で簡略化する」のと、「本人が理解できないから説明を飛ばしている」って違いじゃないですかね。あまり意識してはいないんですが、人に自分の知識を伝えるってことは、理解してもらわないとダメですよね。だから、いらない専門用語を避けたり、日常のものを例にして伝えたりするわけです。

 なのにテレビで目に付くのは、限られた時間で「とりあえず短い文章を読んだ!」という感じ。アナウンサーは正確に原稿を読むのが仕事なんでしょうけど、本当の目的は視聴者に情報を正しく理解してもらうことでしょ。なのに今回、その情報をアナウンサー本人が正しく理解していると思えないことが多すぎた。「本当にプロの仕事か?」と思いますよ。

「とにかく一人の意見だけでなく、数多くの人の意見を聞いて判断する姿勢が重要だと思います」という


―― 物理学者やJ-PARC職員としての責任を果たしている自負があるからこそ、ヘンなところにこだわらずに本心で副業と言えるという感じですね。日記や発言をオープンにするのも責任をとる覚悟があるからこそと思いますが、実際職場では何か言われますか?

多田 気をつけてはいますけど、「あんまり余計なことを書くなよ」と怒られることもあります(笑)。だから、本音にしてもすべてを吐き出してはいないですよ。少なくとも、mixiで書いている日記はどこに貼られようが流されようが、誰に対しても正々堂々と言えることしか書いていませんし。

 ただ、石原都知事の例じゃないですが、発言していい範囲というのは立場によって変わってくると思います。僕が発言できる範囲は今の立場だからであって、将来もし偉い人になったらフランクに話せなくなるかもしれません。組織によっても変わってくるでしょうしね。

(次ページに続く)

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