「負け」こそが次に繋がる
―― 興味深かったのは、西広が「当たれ、当たってくれ」と、心の中で願いながらの顔がアップになったシーンです。ドラマの描き方としては、当人の顔がアップになって強く願うというシーンは、「逆転のフラグ」だったりしますよね。ところが、あっという間に三振してしまうという。
水島 まあ、現実ってそんなものですからね。願えばすべてかなう……ってことはない。「願えばかなうよ」という言葉は、世の中のいろんな場面で使われるけど、考えてみれば無責任なフレーズですよね。
もちろん、願わないとかなわない。だからこそ願うことはすごく大事だと思うんですけど、たとえば子供たちに「願えばかなうんだよ」的なメッセージを根拠もなく安直に送ってしまうのは、ちょっと無責任かなとは思います。努力もしないで、ただ願っていたってかなわないわけですからね。願って、それからなんですよね、大事なのは。「かなうために、じゃあ、具体的に何をするんだ」という。
その意味で言うと、試合終了後、西広が泣き崩れるんですが、それは負けたから悔しいんじゃなくて、自分がふがいない、その悔しさから泣いているんですよね。
一生懸命やっているからって、思い通りにいくことはすごく少ない。世の中なんて、そんなことだらけだし。西浦の子たちもそれは分かっているんじゃないですかね。そこから、悔しさをかみしめながら、「願い」のために、「次」を目指して立ち上がって頑張っていく。悔しさは、強く印象づけたほうがいいんです。
(c) ひぐちアサ・講談社/おお振り製作委員会
―― 悔しさを描くために、どんな演出にしようと思いましたか。
水島 試合終了後、西広が泣き崩れるところは、西広の視点ではなくて、お客さんの視点から見せることにしました。カメラで言うと、西広のアップは見せないで、スタンドの応援席から映しました。実際に、高校野球を何度か見に行ったんですけど、負けたチームが最後挨拶に来るシーンって、スタンド側から見ていて、ものすごく感動的なんですよね。いろいろな人が見守っていてくれて、そういうアングルから見せてあげるのが、一番感動的かなと思ったんです。
対戦相手の美丞大狭山高校も、ムカつくぐらい強いチームにしたかったんです。選手の数も、応援団の大きさも、何もかも西浦より格上というところを強調しました。敵の大きさを描くことで、敗れた悔しさが増す。それって、「次」につながるということですよね。西浦はみんな1年生ですから、高校野球の中でも「その先」がある。
だからもう1つのクライマックスとして、三橋がエースとして立つところを描いています。
(c) ひぐちアサ・講談社/おお振り製作委員会
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