出版する気もないのに「デジタル化権」を押える出版社
最近、出版社が著者に送っている「デジタル化契約書」も、同様のトラブルを引き起こす可能性がある。たとえば講談社の契約書では、既刊本を電子化する権利を講談社が独占する一方、それを出版するとは約束していない。特に「デジタル化の過程で発生した本デジタルコンテンツに関する所有権は全て乙(講談社)に帰属する」という規定があるので、Utadaのように著者の意に反して講談社が出版しても文句はいえない。逆に他の出版社から電子化の話があっても、出すことはできない。
このような独占契約は、紙の本を出すときは普通である。講談社が編集した本を小学館が出したら、編集にかかったコストは回収できないからだ。しかし紙でいったん出版した本のコストは、すでに回収されている。ハードカバーで出した本を文庫で出すことは著者の自由であり、元の出版社には定価の3%が支払われるだけだ。それを電子版では元の出版社が独占しようというのはおかしい。
印税が(各社一律に)15%になっているのもおかしい。編集・製本・宣伝などの固定費は紙の本で回収しているので、電子版で必要な経費は1冊あたり数万円だ。売り上げ部数にもよるが、出版社の取り分はアマゾンやアップルのように30%ぐらいがいいところだろう。零細なアゴラブックスでも、著者に最大50%を還元し、独占はしない。
講談社は自社で出している2万点について一律に契約書を送っているようだから、すべて電子版で出すとは思えない。他社に権利を押えられる前に押えておこうということだろう。もちろん契約は自由だから、それでもいいという著者は契約すればいいが、コンテンツの「所有権」を出版社に取られると、Utadaのようなことになっても泣き寝入りするしかない。
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