業界団体が仕切るマスコミの古い産業構造
官庁が記者クラブを残すもう一つの理由は、「混乱を防ぐ」ためだ。記者クラブ加盟社以外の参加を認めるとなると、すべてのメディアやフリーランス、あるいはブロガーも会見に入れることになる。セキュリティのチェックなどが大変だ、というものだ。現在は首相官邸でも、記者クラブ加盟社の社員なら無条件に記者証が発行されている。いわば記者クラブという業界団体が卸し売りでセキュリティを保証していたわけだ。
かつてのように、メディアといえば新聞・テレビ・ラジオしかなかった時代なら、それでもよかった。しかし今はウェブマガジンだけでなく1000万を超えるブログも、マスコミと同じぐらい影響を持ち始めている。本連載の前回記事でも書いたように、あと10年もすればこうした記者クラブ以外のメディアが主要な産業になるだろう。そういう時代に、特定の業界団体が情報を独占することは不公正で非効率だ。
同じような構造は、かつて日本の多くの業界にあった。たとえば90年代には、大蔵省は全銀協(全国銀行協会連合会)を通じて、弱い銀行をつぶさない護送船団方式とよばれる行政指導を行なった。しかし金融ビッグバンによって外資系銀行・証券が参入すると、護送船団行政は維持できなくなり、金融庁が個別の銀行を検査するシステムになった。参入は自由にし、監視は個別に行なう小売り方式に変わったのだ。
こうした中で、最後まで護送船団方式が残っているのが新聞・放送業界である。それは彼らが批判の武器であるメディアを独占してきたからだ。しかしこの独占も壊れつつある。アメリカのホワイトハウスでは、大統領の記者会見に参加するのは誰でも自由だが、何ヵ月もかけて厳格なセキュリティ・チェックを行なう。
日本もこのようにルールにもとづいて個別にチェックする官民関係に変える必要がある。それは今までの卸売りに比べればコストがかかるが、参入を自由にして競争を促進することで業界が活性化する。この変化に最後まで取り残された産業がマスコミなのである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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