「官民癒着」から「政治とメディアの癒着」へ
逆にメディアに嫌われると、組織の弱い民主党の議員は困る。ある議員は、テレビ番組で「ローカル民放は自民党の政治家に支配されて偏向した報道をしている」と発言したら、二度と出演の話が来なくなったという。もちろん出演者を選ぶのはテレビ局の裁量であり、この議員が抗議することはできない。しかしこのようにメディアに「干される」と、特に都市部では当落に影響する。
自民党と違って、民主党の議員には利益誘導する業界団体が(よくも悪くも)ほとんど無いので、従来型の官民癒着は起こりにくい。他方、メディアへの露出が当落を左右するので、政治とメディアの癒着が起こりやすい。特に「改革派」といわれる議員ほどメディアの人気者になり、それが集票力や党内基盤になるので、メディアを敵に回しにくい。
新聞の「特殊指定」をめぐる騒ぎでは、自民党では中川秀直、高市早苗、山本一太、民主党では鳩山由紀夫、松本剛明、山岡賢次などの議員が特殊指定の見直しに反対する議員連盟を結成した。
今度の総選挙で、自民党のように地元や業界団体への利益誘導でがんじがらめになった政治スタイルに、有権者が「ノー」を突きつけたことは明白だ。しかしその代わり日本でも、米国型の「テレポリティクス」(テレビ政治)の弊害が強まる傾向が見えている。それは単に政策がテレビ向けのスタンドプレーで決まるだけでなく、電波利権や再販制度などメディアの多様化をさまたげる制度を温存するバイアスを生むおそれが強い。
米国では最近、テレポリティクスの弊害を批判する声は聞かれなくなった。むしろテレビ局や新聞社の経営が傾き、マスメディアの独占が崩れたことが政治を大きく変えようとしている。ほとんど無名のオバマ上院議員が大統領になったことは、ウェブの力なしでは考えられない。日本でも遠からず、そういう時代が来ることは確実だ。民主党が記者クラブとの腐れ縁を断ち切り、多様な民意と冷静な提言を政策に反映できるかどうかが、日本の政治の成熟度を決めるだろう。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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