地デジテレビを買うのは
「新ライセンス方式」が決まってから
デジコン委で議論されてきたのは、著作権保護つまり放送信号の暗号化である。これを当初は「コピーワンス」というB-CASカード固有の方式で行なっていたため、不便だということで「ダビング10」に変更された。しかしコンテンツを暗号化するだけなら、DVDに使われているCSSのようなソフトウェアで十分であり、B-CASカードは必要はない。
これは私が以前から指摘してきたことで、B-CAS社も「著作権保護のためにはカードはいらない」と明言している。だからB-CASカードは廃止し、暗号化システムは(必要ならば)ソフトウェアで実装すればよい――という結論は技術的には自明である。ところが関係者の話によると「テレビ局が土俵際で粘ってB-CASを延命しようとしている」とのことだ。
その結果、骨子案によれば、次の図のようにB-CASを残したまま「新ライセンス方式」が並行して導入される方向になりそうだ。非常にわかりにくいが、この「ライセンス発行・管理機関」はB-CAS社とは別の「非営利法人」にする方針だという。また官僚やテレビ局の天下り先が一つ増えるわけだ。
しかしB-CASとは別に、ソフトウェアによる暗号化方式が地デジ対応テレビに実装されるようになれば、もうB-CASカードを買う必要もなく、個人情報をB-CAS社に収集される心配もない。NHKの「BS受信料を払え」というメッセージも出てこなくなる。
したがってB-CAS内蔵のテレビはまったく売れなくなり、B-CAS社は残るが、昔のテレビを保守するだけの会社になるだろう。だから地デジ対応テレビを買うなら、デジコン委の中間方針で新方式が決まってからのほうが賢明だ。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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