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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第50回

「年越し派遣村」から見える日本の未来

2009年01月14日 09時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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派遣の急増をもたらした原因は何か

「年越し派遣村」のウェブサイト。「日比谷で年末年始を生き抜く。」をテーマに登場した日比谷公園派遣村には約500人が集まった

 東京の日比谷公園で行なわれた「年越し派遣村」が、いろいろな波紋を呼んでいる。テレビ朝日の「報道ステーション」では、古舘伊知郎キャスターが派遣村に同情して、「政府が炊き出しをやれ」と憤ってみせた。しかし、炊き出しで彼らの雇用が生まれるのか。厚労省は講堂を開放し、千代田区は「緊急措置」として、生活保護を申請した約240人の労働者のほぼ全員に、ひとり約10万円の生活保護を支給したが、250万人の完全失業者全員が申請してきたら同じことをするのか。

 派遣労働者のような「非正規労働者」は日本の労働人口の1/3を超え、世界的にみても異常な状態だ。このような状況について「小泉内閣の構造改革のせいで派遣が増えた」という人がいるが、非正規労働者の比率は1994年ごろから継続して増えており、小泉内閣とは無関係だ。その最大の原因は長期不況である。

 不況になると労働力が余るので、普通は解雇やレイオフが起こるが、日本では解雇規制が非常に強いため、正社員を解雇できない。そのため企業が新卒の採用を控え、「就職氷河期」と呼ばれる状況が発生した。これによって労働力が不足した分を、クビにしやすい非正規労働者によって補充したため、今のような状態になったのだ。

 だから派遣労働者の急増をまねいたのは、正社員を過剰に保護している日本の労働法制だ、とOECD(経済協力開発機構)の対日審査報告書は指摘している。特に労働基準法で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は解雇を無効とすると規定し、裁判でも企業が倒産するような場合しか解雇を認めない判例が確立しているので、労使紛争を恐れる企業はコストの高い正社員の採用を抑制する。

 正社員の雇用を守るのは、事後的にはいいことだ。しかし正社員の解雇がむずかしいことが事前に分かると、企業は正社員の採用を控え、失業が増えてしまう。このように事後的には望ましい行動が事前のインセンティブをゆがめるパラドックスを「時間非整合性」と呼ぶ。政策を立案するとき、その長期的な(事前の)効果を考えないで場当たり的に「弱者救済」を繰り返すと、結果的には失業が増え、労働者を悲惨な境遇に突き落とすのだ。

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