このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第50回

「年越し派遣村」から見える日本の未来

2009年01月14日 09時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

派遣村の人々にしかできないこと


 派遣村の湯浅誠村長は、厚労省にあてた要望書で次のように書いている。

そもそも今回の事態は、企業に安易な「派遣切り」などを許してしまう労働法制・労働者派遣法の制度上の不備にある。年度末にはさらに大規模の「派遣切り」が行われるとも言われている。同じ惨劇を繰り返さないため、今回の教訓に学び、早急に「労働者派遣法」の抜本的な改正などの労働法制の見直しを行うとともに、「派遣切り」「期間工切り」を認めない緊急特別立法および諸政策を実施すべきである。

 今回の事態の原因が「労働法制・労働者派遣法にある」という認識は正しい。しかし「派遣切りを認めない緊急特別立法」を行なったら、何が起こるだろうか。派遣労働者が解雇できなくなると分かれば、企業は今のうちに「派遣切り」を急ぐだろう。そして派遣労働者の解雇規制が強化されたら、請負など雇用契約以外の形で労働力を確保するだろう。それも「偽装請負」として指弾されたら、中国などにアウトソーシングするだろう。

 派遣労働者の激増をもたらした根本原因は、日本経済の長期低迷であり、その原因のひとつがこうした異常な雇用規制だ。おかげで情報産業は、パソコンや携帯電話に典型的にみられるように国際競争力を失い、中国・韓国・台湾などに追い上げられている。雇用規制の強化は「ワーキング・プア」をさらに悲惨な境遇に追い込むだけでなく、高給を食んで社内失業している「ノンワーキング・リッチ」を固定化して労働生産性を悪化させる、日本経済の自殺行為である。

 派遣村には労働者が500人しか集まらなかったのに、ボランティアは1700人も集まったそうだ。彼らが主観的には善意でやっていることは分かるが、一時的な慈善事業は問題の根本的解決にはならない。さらに派遣労働の規制強化を求めるのは逆で、不況を深刻化して派遣労働者の問題を悪化させる恐れが強い。

 正社員の解雇規制を緩和すれば、企業の負担が減って雇用が増え、正社員と派遣社員の差別がなくなる。労働移動を促進すれば、労働生産性が高まって不況から脱却できる可能性もある。しかし解雇規制の緩和は政治的にきわめて困難で、フランスでも2006年には規制緩和に反対する暴動が起きて政府が撤回した。それを実現できるのは、湯浅氏など派遣労働者の側の人々だ。彼らが労働組合の古い発想を脱却し、柔軟な労働市場を要求すれば、日本経済にも派遣労働者にも明るい未来が開けるかもしれない。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン