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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” ― 第12回

「見つけてもらえるコンテンツ」とは? クリエイティブとビジネスとの溝

2016年01月26日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 新年が明けてもうすぐひと月。ネットメディアでも2016年のビジョンが語られています。昨年を振り返ってみると、オリンピックの新競技場やロゴ問題に代表されるように、「創造」→「表現」→「マネタイズ」のシステムの老朽化が目につきました。できあがった作品の賛否は別にしても、創るプロセス、評価するプロセスとマネタイズの問題です。

 こうしたプロセスが大切なのは、公共の建物やイベントだけではありません。ネットのコンテンツだってそう。誰かが発信したコンテンツをパクって自社の利益にしちゃおうってビジネスモデルはもうダメで、ユーザーや消費者は、価値の高い情報に効率良く、短時間で触れられるコンテンツを求めています。

2016年は「0→1」をできることが大事

 僕は2016年は「0→1」にするプロセス、それも価値ある「1」にすることが大切になる時代になると思っています。もちろん、そのプロセスは昔から大事だったんですが、情報でもコンテンツでもロゴマークでも、パクリや無断使用でユーザーを誤魔化せなくなってきました。というのも、SNSの普及+検索メソッドの進化、ユーザーによるマンパワーで、元ネタの発掘、検証、拡散のインフラができあがったこともその理由の一つ。これも、もちろん前からありましたが、そのインフラが成熟しきった感があります。

 もはや、コンテンツを右から左に流すだけで利益を得ていた時代は終わり、自分でちゃんと創造したり、オリジナルに敬意を払いつつも距離感のある創作をしないと、ユーザーや消費者に興味を持たれないだけでなく、炎上する時代になりました。

 ITメディアでも、企業がプレスリリースしたイメージをただ伝える記事より、自腹で商品を購入したレビューやSNS発のリアルなユーザーの反応だけが信頼されるようになってきたのはご存知の通りです。

問題はその先…

 じゃあ「オリジナルのコンテンツなら評価されるか?」というと、そうもいきません。「0→1」のプロセスが無事に終わっても、「評価」、さらにその先のマネタイズ(利益化)ができなければプロにはなれません。

 炎上などの悲劇を生み出すのは、そんなプロセスの順序が逆になっているせい。「売れる商品を作りたい」とか「とりあえず有名になりたい!」なんて結果から逆算してもすぐに破綻してしまいます。運良く注目されても、最後は「コピペ」か「過激」で、やっぱり炎上で終わることに…。動画の評価やアクセスを稼ごうとしたドローン少年もそうでした。

 先日、お爺ちゃんが特許を取った「見開き1ページの方眼ノート」が孫にツイートされて完売した話題が注目されました。「製法の発明(0→1)」「ツイートで拡散(評価)」「完売(マネタイズ)」という王道のプロセス。もはや、「価値は0(またはコピペ)でもマーケティング、宣伝で売れる」なんて時代ではありません。

「見つけてもらえるコンテンツ」が鍵

 今までは「どうしたら目立てるか?」にばかり目を向けていた表現者(開発者)ですが、SNSやユーザーレビューが成熟期に突入した現在では「価値あるコンテンツ」さえできれば、ユーザーやSNS、メディアが探して見つけてくれる時代になってきました。目立とうとしなくても「ユーザーに見つけてもらう」、いわば逆転の発想です。

 「バカ発見器」とさえ囁かれるSNSで暴言や呟きが発掘され、拡散するのも同じプロセス。良いことも、悪いことも同じように拡散する現象と同じ。SNSだけでなく、YouTube、Amazon、ヤフオク、App Storeなど、拡散のインフラはもう十分に整備され尽くされています。

 ただし、芸能人など、有名人の発信は速く拡散しますが、普通の人でもキッカケさえあれば拡散する。ただ、時間がかかるだけです。資本力のある企業がTVCMを全国に流しても、商品(コンテンツの内容)に魅力がなければ、失敗に終わることと同じです。

 こうした拡散の力学は、昔から同じでしたが、インターネットの登場とSNSなどの普及で、拡散速度が急速に変わりました。

 大切なのは、プロセスの発端になる「0→1」の部分。ユーザーを惹きつけることが重要です。さらに、ユーザーが探したい、友人にも知らせたい、と思われれば、拡散はより加速します。Facebookのアルゴリズムも同様で、「いいね!」が多いとリーチが伸びる仕組みになっています。

「0→1」の成功は、とにかく量を作ること

 自慢話のようで恐縮ですが、僕がこの世界でプロになれたのは、若くて体力があるときにマジックの作品をたくさん作ったから。その中から厳選して海外の専門誌に発表を続け、21作品ほどが掲載されました。これは、特に売り込んだわけでもなく、噂を聞きつけて海外の編集者が取材に来てくれました。創作したマジックは駄作を含めれば、数百になるかもしれません。

 その時代は、インターネットもなく、力のあるエージェントに所属していませんでしたので、そんな情報の拡散には時間もかかりました。しかし、量を作ることで質を高め、ファンが増えていき、拡散力は確実に高まっていきます。

 ただし、「公表する」と「ボツにする」、その選択は厳しくすることが重要。「あいつの作品はツマラナイ」とイメージを持たれてしまうと、それを払拭するにも時間がかかります。たくさん作って、厳しく選別。それが「0→1」を成功させる秘訣だと思っています。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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