このページの本文へ

前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第14回

性格が曲がっている?芸能人のスキャンダルなどが注目される7つの理由

2016年02月23日 17時00分更新

文● 前田知洋

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 このところ、筆者が注目しているのは、芸能人の不倫騒動やスポーツ選手の薬物使用、日本を代表する電機メーカーが海外資本に買収されそうになるニュースなど。こうした出来事が他と異なるのは、普段はゴシップやスキャンダルに興味がない多くの人々の関心を集めたこと。

 有名人のスキャンダルやゴシップは、昔から人気のコンテンツです。表向きは興味がないフリをしている真面目そうな人でも、「〇〇の真相!」なんて、キャッチーな見出しの記事をスマフォで電車で目を通したり、自宅のPCでググったりする人もいるはず。

 なぜ人々は、そんな話題に強く興味をそそられるでしょう。「他人の不幸は蜜の味」などとも言いますが、そんな性格が曲がっている人は多くはないはず。というわけで、今回は人がスキャンダルを注目してしまう7つの理由を考察してます。

◯ 知らない世界を知る興奮
じつは「へぇ~!」、「なるほど…」は気持ちがいい

 NHKの「クローズアップ現代」や「プロフェッショナル」など、自分の知らない世界を教えてくれるフォーマットは定番の人気コンテンツ。なんとなく疑問に思っていたことが「なるほど!」と腑に落ちるのは、人間に備わった欲求のひとつです。パズルやクイズがバナー型の広告に使われるのは、そんな心理を利用しています。

◯ スキャンダルには、多人数が関わっている
「キャッチーな見出しの記事」が作られるのも、そんな理由

 多くのスタッフが関わった映画がヒットするように、大きなスキャンダルには多くの人が関わっています。ひとつの週刊誌でも10人ほどのスタッフが一案件に関わるのも珍しいことではありません。さらに、そこに関係者、同業他社、事情通、さらにスキャンダルを売り込むプロも関わります。ポータルサイトのニュース欄を見て、キャッチーな「見出し」を思わずクリックしてしまった経験はないでしょうか?そんなコピーライトや読者が納得するようなストーリーを考える人が多いほど、スキャンダルの密度は上がっていきます。

 さらに、アクセス数を上げたいブロガー、コメンテーター、番組キャスター、ゲストの芸能人までもがスキャンダルに言及。その発言がまた記事になるという循環を繰り返し、興味を持つ人を増やしていきます。

◯ 日々更新されるストーリー
リアルな連続ドラマ

 NHKの朝の連続ドラマが人気なのは、「万人が理解しやすいストーリー」「歴史など、実話に関わるリアリズム」「事件や事故、不運などのアクシデント」などの要素が混ざり、毎回テンポよく展開していくからです。

 ゴシップやスキャンダルも同じです。日々更新され、新情報が公開され、それぞれの最終回に向かっていく…。その様子を共感や反感を持ちながら、続きを見逃すまいと視聴者や読者が釘付けになっていきます。中毒症状に似た、情報の飢餓感が煽られます。

◯ 語りやすい、共通の話題。コミュニケーションへの渇望
職場や家庭の話題って、意外に少ない

 そうした話題は、読者や視聴者にとっても話題にしやすい。なぜなら、万人向けの日々の会話の糸口はじつは難しいもの。同性や同世代なら共通の話題も見つかりますが、職場など、性別や世代、立場を超えてのコミュニケーションは簡単ではありません。

 フェイスブックやツイッターでも、フレンチレストランの料理やパーティの写真を投稿すれば「リア充自慢」と取られ、子供の写真をアップすれば「プライバシーが…」とクレームがつく…。

 そんな雑談選びが難しい中、やわらかニュースなら芸能スキャンダル、少し真面目なら社会問題の薬物犯罪、ハードな話題なら政治家のスキャンダルや海外資本による日本のメーカー買収であれば話題にしやすい。ゴシップやスキャンダルには、そんな失敗の少ない共通テーマとしての役割があります。

◯ プチ秘密を共有する快楽
「じつはね、あれは…」と語る快楽

 人は誰しも「事情通」だと思われたいもの。そのためには「人脈」や「情報のネットワーク」「的確な推測」が必要です。ただし、現実は厳しいもの。本当に有益な情報を持っている人は、気軽に他人に教えたりはしません。

 僕の仕事のマジックでも、たまに「あのマジックのタネはね…」なんて、隣の人に物知り顔でマジックの秘密を語る人もいますが、ほとんどは間違った解説です(笑)。ちょっとググったり、週刊誌を読んだだけで「事情通」気分になるのも同じです。

 確かに、マジックやゴシップなら、クリティカルなミッションとは違い、他者による情報の精査はされません。ですから、誰でも気軽にネットやスポーツ紙で仕入れた話を「じつはね、あれは…」と人に伝えることができる。まぁ、聞いた方は本気にしていないこともありますが、ゴシップなら、そんなプチ秘密共有の快楽をリスクなく味わえます。

◯ みんな諸行無常が大好き
人生の失敗への興味は、世界共通です

 「諸行無常(成功している人は、ずっと成功しているわけじゃなく、全ては移り変わる)」は日本人独特の感性だと誤解されがちです。しかし、ゴシップやスキャンダルは世界共通の人気コンテンツ。「西洋映画のストーリーの基本は『男の子が女の子と出会って、別れること』」なんて単純化する人もいるほど、西洋人も諸行無常が大好きです。現代劇の基礎となっているシェークスピアの名作を見ても、愛から憎しみ、恩義から恨みなど、人生の失敗(無常)への興味は世界共通です。

 つまり、日本も含め、世界中の人は、成功と失敗の関係、人生の不可解さに常に興味を持っていることになります。

◯ フィクションであることの再確認
立派な名言はウソなのか?

 芸能人やスポーツ選手、政治家の名言など、インタビューや雑誌などでもよく取り上げられます。人間は誰しも多面性がありますから、ひとつの失敗で全てを否定されるべきではないと思っています。しかし、本人が成功しているときにはありがたがっていた名言やフレーズが、本人が失敗してしまうと誰も見向きもしなくなってしまう。そればかりか、汚れたような嫌悪感を持ちやすい風潮があることも確かです。急に手のひらを返すというか…。

 こうした振る舞いは、名言にしろ汚名にしろ、それがイメージに密接に関わっているからこそ。成功者の名言に真実が含んでいることは確かです。しかし、芸能人やスポーツ選手、政治家など、有名人だからと言葉やイメージを信奉しすぎるのも愚かなこと。ゴシップは、そんな過度な憧れがフィクションであることを僕らが再確認している心の反動でもあるのかもしれません。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン