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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第31回

ピコ太郎のスペックを考察してみる

2016年11月08日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 遅ればせながら「ピコ太郎」にハマっています。たぶん、2週遅れぐらいだと思いますが…。あの昭和のヤンキーっぽいコスチュームやサングラス、オネェさんのような振り付けをはじめ、その底知れないハッピーさがその魅力です。

 さらに10年以上前に伝説の番組『マネーの虎』に出演し「音楽で世界を驚かせたい」と語っていた過去も発掘されました。その有言実行ぶりにさらにファンが増えるというバイラルぶりです。

 できるだけお金と手間をかけ、情報を詰め込もうとするテレビや商業誌メディアに対し、情報をピンポイントで絞り、個人がサクッと動画投稿するのが人気になってきたのは、ピコ太郎に限らず、ご存知のとおりです。情報を限定するっていうのは、たとえば「顔出しなし」、「ゲーム実況」とか「新製品の開封/ショートインプレッション」など。5分~15分程度にまとめたコンテンツで主にYouTubeなどに投稿されています。

情報を限定する

 ピコ太郎の動画では「白い背景」「簡単な英語というユニバーサル・ランゲージ」「再生時間1分」など、コンテンツの情報が整頓されています。その情報の選別があることで、ピコ太郎のエキセントリックさ(コスチューム、コミカルさ、不合理さ)に視聴者が集中できる。逆に、テレビや商業誌などは情報が多すぎて注意が散漫になってしまいます。バラエティ番組で出演者が多すぎ、印象しか残らないケースもあります。

 最近、報道バラエティ番組などの一部を切り出した動画がYouTubeなどで目立つようになりました。もちろん違法アップロードなのですが、情報量の多いコンテンツから、注目度の高いシーンだけを観たい/聞きたいユーザーの需要を察してのことなのでしょう。

メディアのフォーマットによって変わる情報のバリュー

 ピコ太郎が爆発的にヒットし、さらに拡散した1番の理由は、その再生時間にあると筆者は分析しています。もう少し具体的に言うと「これ、テレビとかショーのコンテンツにするには少し大変そうだなぁ…」が初めて動画を観た時の感想です。

 こうした意見は、まぁ、余計なお世話なのかもしれませんが、マネタイズ…、YouTubeからの収益だけでなく「ライブやゲスト出演する時にどうするの?」って話。動画投稿サイトであれば1~5分ほどで十分であっても、テレビやライブのゲスト出演なら最低でも10分ほどは必要でしょうし、ステージでの単独ライブなら50分ほどの時間を埋めなくてはなりません。おそらく、こうした考え自体も旧いビジネスモデルなのかもしれませんが。

バラエティ番組→YouTube→Instagramのフォーマットへ収斂するか?

 このようにコンテンツを分析する時、重要なのは分析よりも予言(「今後、どうなるか?」など)だと思っています。それは難しくもあり、執筆者としてもリスクもあります。予言が外れてしまえば評価は下がりますし、すべてが記録されてしまうネット時代ではなおさらのこと。

 若年層は短くフリーなコンテンツに流れ、中間層はテキストと投稿動画のハイブリッドへ、熟年層は報道特集や映画など情報が多くコストがかかるメディアに棲みわけていくと筆者は考察しています。

 先日「六本木アートナイト」へ行ってきました。このイベント、ほとんどが入場無料/観覧無料なのですが、飲食や駐車場(終電を逃してタクシー代など)やイベント限定グッズを買ったりすると意外にコストがかかります。まぁ、アートが好きな人たちは富裕層や熟年層が多い。特にコンテンポラリーアート(現代芸術)はそう。そんなことに興味がない人にとっては、コンビニでサンドイッチを買って、家でネットを眺める方がよっぽどお金がかからないんですよね。

六本木アートナイトのワンシーン。カンパニー・デ・キダム「FierS à Cheval ~誇り高き馬~」

 つまり、同級生と(LINEなど)コミュニケーションが忙しい/勉強や仕事が忙しい/ゲームをやりたい、などの層は、Insatagramなど1分くらいのショートコンテンツの方が需要があるし、時間やお金に余裕がある層は世代にかかわらず、時間がかかったりコストがかかるコンテンツに流れそうです。筆者も旧世代になりつつあるので、ピコ太郎動画を観た後にiTunesで映画をダウンロードしたりしちゃってます。

ピコ太郎、クールジャパンへの期待

 それでもやっぱりピコ太郎を応援したい気持ちもあります。数秒~数十秒露出するCM出演や独自のコミカルさでぜひクールジャパンの舞台へ立つことを期待しています。なんとか2020年くらいまでコンテンツをティーズ(出し惜しみ)しながらオリンピックの開会式に…。なんてエールをファンながら送っています。

 ゲーム実況や新製品開封、商品レビューと異なり、ピコ太郎がゼロから生み出したコンテンツ、新たなショートコンテンツ群のトレンドになることを心から願っております。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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