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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第33回

パズルピースみたいなコンテンツが人気の鍵

2016年12月13日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 現在、YouTubeなどの動画投稿サイトで人気があるコンテンツのゲーム実況や商品レビュー。人気コンテンツとアクセスの伸び悩むコンテンツ、その違いはどこにあるのでしょう。

 動画に限らず、人気コンテンツには「パズルのピース」のような不完全さがあります。ピースとしては完成していますが、それだけでは不完全。たとえばゲーム実況なら「トレンドなゲーム」+「プレイの上手い/下手」+「実況の面白さ」のパズルピースに対して、ユーザーの「そのゲームへの興味度」や「実況者への親近感」「投稿の頻度」がぴったりとハマればブレイクする。そんなイメージです。

 悪い例ですが、コンテンツが炎上するのも似た現象です。「不完全/不誠実なメッセージ」のピースに、ネットユーザーの「えっ!それって違うんじゃ?」などのツッコミや「怒り」がぴったりとフィットすると炎上します。そして、この「炎上」という事象も不完全さを伴うため、さらにテレビメディアに取り上げられて出演者がコメントする。そのニュースの取り上げられかたやコメントに不完全さがあれば、さらに炎上…。つまり、パズルの完成形が大きくなりながら多くの人を巻き込む構造です。

パズルピースは周囲に凹凸があるからこそ意味がある

ユーザーの実時間を奪い合う戦争になるか?

 一時期、ユーザーの限られた時間をマスメディアとネットメディアが奪い合うことが話題になっていました。ところがテレビを眺めながら友達のタイムラインを眺めたり、掲示板のまとめを読んだりする。時間の奪い合いではなく、コンテンツの共存になっているのはご存知のとおりです。テレビ局とYouTubeなどが、広告費を奪い合うという意味ではライバル関係ですが、ユーザーからは「どちらでも面白ければいい」というわけです。

重なり合うコンテンツ

 上で説明したように、テレビを眺めながら友達のタイムラインを眺めたり、掲示板のまとめを読む。電車など、移動時間に通過駅を気にしながらスマホを眺めるのも似ています。「乗車中がつまらない」というピースと「数分で終わるゲーム」実時間コンテンツがハマった結果とも言えます。

 交通手段としては「安価で安全、速く目的地に到着する」というパズルピースとしての完成度は利用者には強く求められる反面、「乗車中がつまらない」「混んでる/座れない」などは、要望はあるかもしれませんが絶対に必要ではありません。長距離など、どうしても座りたい人はグリーン券などを確保すればいいわけです。

 いっぽうでスマホゲームは「気軽にできること」「課金しなくても楽しめる」「短い時間で終わる」がパズルピースとしての役割。「グラフィックがイマイチ」とか「ストーリー性が弱い」などはパズルピースとしては不可欠ではありません。

 余談ですが、「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」がハイグラフィックなゲームが求められる現代でもヒットしたのも「懐かしい」「ゲームの収録数が多い」「テレビとの接続が簡単」など、パズルピースの完成度が高かったせいでしょう。「コントローラーが小さくて使いづらい」など商品としてのマイナス要素、パズルピースの凹み部分があったとしてもです。

Wikipediaのロゴもパズルピースがモチーフになっている

ネットコンテンツの競合は何か?

 テレビ番組が「見ているだけで流れ込んでくる、パッケージされたコンテンツ」だとしたら、ネットのデジタルコンテツは「自分で探す断片的なコンテンツ」。書籍や雑誌などは「選択的に自ら購入するパッケージされたコンテンツ」です。

 乱暴な例えかもしれませんが、テレビ番組が宅配される暖かい定食だとしたら、ネットのコンテンツは好きな食材をつまめるビュッフェ。書籍ならばお弁当でしょうか(笑)。現状、それぞれに特色はあります。食事と同じように情報にも摂取量の限界の個人差がありますから「テレビだけでいい」「ネットだけでいい」という人もいるでしょう。

まとめ
これからのコンテンツはパッケージではなく、完璧性を求めない

 いままで、コンテンツのありかたは、従来からのメディアのように、パッケージングされた完成度の高いものが求められてきました。しかし、ユーザーが取捨選択することで各自がパズルピースを組み合わせていくことが主流になりつつあります。

 そうしたパズルピース型のコンテンツを提供するときも、無理に起承転結つけたりパッケージするのではなく、ユーザーが持っているパズルピースを想定しながらコンテンツを送ることが大切になるはず。もちろん、コンテンツにデマや嘘が含まれてもいいという意味ではありません。

 連日報道されるように、アメリカの大統領選挙がこれだけ盛り上がったのは「トランプ氏、クリントン氏が不完全な候補者だったから…」と言えるかもしれません。「メディア情報の不完全さ?」、「トランプ氏の人種差別的な発言?」「クリントン氏のメール問題?」など、不完全なパズルピースがテーブルにあったからと筆者は分析しています。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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