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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第11回

スター・ウォーズにおける7つの新発明 その成功の裏側

2016年01月12日 17時00分更新

文● 前田知洋

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最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の製作陣。左から、キャスリーン・ケネディ(プロデューサー)、J・J・エイブラムス(監督)、ローレンス・カスダン(脚本)。Photo / Gage Skidmore CC BY-SA 2.0

 筆者の周囲では「スター・ウォーズ見た?」が挨拶代わりになっているほどの『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。先日も全世界での興行成績が12日間で10億ドル(約1202億円)を超えたことが報道されたばかりです。

 この社会現象を「ビッグネームな映画だから…」と片付けてしまうのは簡単です。ストーリーの分析などは映画評論家に任せるにしても、この巨大ビジネス・コンテンツに成長したスター・ウォーズ、そこには他の映画作品とは違った7つの新発明があることをご存知でしょうか。

スター・ウォーズの新発明 その1 途中から始まってもOKにした

 最近のアメリカで「スター・ウォーズは教育に良くない。子供達がモノの数を『4、5、6、1、2、3、7…』と数えるようになった…」なんてジョークすらあるほど。じつは、昔の冒険活劇では、いきなりハイライトシーン(派手なシーン)から物語が始まることもありましたが、近年の映画は、プロローグ(事件などの発端)から静かに始まることがほとんど。「起承転結」でいえば、「起」から始まります。

 ところが、スター・ウォーズではご存知のように、いきなり「転」から始まります。それもエピソード4から(笑)。映画館が座席指定、完全入れ替えでない頃は、映画の途中からブラリと入場し、休憩を挟んで、次の回を最初から見て、ストーリーを頭の中で繋げる…、なんてアバウトな観客って意外にいました。人間の脳って意外に良くできているんです。

スター・ウォーズの新発明 その2 「昔々…」で始まるSF?

 SFといえば未来の話…が普通です。しかしスター・ウォーズでは「昔々…」と始まります。スター・ウォーズは神話やおとぎ話として作られているのはファンの間では有名な話。神話やおとぎ話だから、桃太郎や浦島太郎のように、善と悪がはっきりと分かれています。「ジェダイ」のグッド・ガイズ(良い人たち)と「ダークサイド」のバッド・ガイズ(悪い人たち)。

 筆者は友人夫妻と『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を鑑賞したのですが、スター・ウォーズ初体験の奥様に「SF映画じゃなくて、超能力映画として観た方がストーリーがわかりやすい」って説明していました。「なるほど!」その通りです。

スター・ウォーズの新発明 その3 ボーイング社のデザイナー、ラルフ・マッカリーに4つのイラストを最初に描かせた

 1~6の脚本を手がけたジョージ・ルーカスは、最初の作品(エピソード4)の撮影前に、シリーズの代名詞ともいえるロボット、R2-D2とC-3POが砂漠を歩くシーン、ダース・ベイダーとオビ=ワンのライトセイバーによる決闘シーン、デス・スターなどを、映画界ではなく、航空機メーカーのボーイング社のデザイナー、ラルフ・マッカリーに依頼。それぞれのキャラクターのプロトタイプともいえるデザインを作り上げました。そのおかげで、独特なキャラクター達は世界中のファンに長い間愛されることに…。

スター・ウォーズの新発明 その4 「フォースと共にあれ」のフレーズ

 シリーズの中で頻繁に登場するフレーズ「フォースと共にあれ(May the force be with you)」。このフレーズはキリスト教の「主と共にあれ(May the LORD be with you)」のバリエーション。ここでも、神話や宗教がスター・ウォーズと密接につながっていることがわかります。

スター・ウォーズの新発明 その5 太刀筋を光らせた

 日本の時代劇では、刀の軌跡を「太刀筋(たちすじ)」などと呼びます。僕は居合の経験があるのですが、時代劇の場合、刀の動きが早すぎると観客に何が起きたのかがわかりません。その理由は、刀が銀色で照明によって見えたり、見えなかったりするせい。ライトセイバー(光の剣)にすることで、どんなに早く剣を動かしても、観客は太刀筋をハッキリ見ることができる。これって、すごい発明。スター・ウォーズといえばライトセイバーの戦いと言えるほど。エピソード1~3では、それぞれのキャラクターに合わせて剣の振り方が違うという繊細な演出になっています。

スター・ウォーズの新発明 その6 SF映画の音楽をシンフォニーで作曲

 キューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968年公開)にクラシック音楽が使われたこともありますが、スター・ウォーズでは『ジョーズ』や『ポセイドン・アドベンチャー』、のちに『ハリー・ポッター』シリーズなどの音楽を手がけたジョン・ウィリアムズに依頼。ウィリアムズは、当時流行だったシンセサイザー(電子音)などを使わず、古き良き海賊映画などのイメージで曲を作り上げました。のちにオーケストラのスコア(楽譜)は20万部が売れ、国内ミュージックにクラシック音楽としては初めてランクインされました。

スター・ウォーズの新発明 その7 グッズ販売と興行をセットにした

 監督のルーカスは、最初の作品(エピソード4)で脚本執筆料5万ドル、監督料10万ドルだけを映画会社から受け取る代わりに、マーチャンダイズ(グッズ販売)の権利を全て獲得。のちに、そうした商品化権がルーカスに巨万の富を生み出すことになります。当時の映画会社は、映画の関連グッズが大量に売れることを想像できませんでした。

 さらに、街中のコンビニやインターネットに溢れるスター・ウォーズグッズが新作映画のプロモーションになり、劇場への動員を増やす、そんな相乗効果すらあります。こんなビジネスモデルを発明し、成功したこともスター・ウォーズの功績です。有名になったフレーズ「フォースと共にあれ」になぞらえば「関連グッズと共にあれ」でしょうか…。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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