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アップルはPaaSを目指すか? — 開発者が見た「WWDC」講演

2011年07月06日 22時30分更新

文● 千種菊理

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 米国時間6月6日、サンフランシスコにおいて「Apple World Wide Developers Conference 2011」(WWDC 2011)が開催された。

「Apple World Wide Developers Conference 2011」(WWDC 2011)

 WWDCは、毎年この時期に行なわれている、アップルによる開発者向けのコンファレンスで、ちょうど1年前の6月7日にもWWDC 2010が同地で開催された(関連記事)。

Apple Keynotes(CEO スティーブ・ジョブズ氏基調講演集)
作者 Apple 価格無料
ファイル容量 カテゴリTechニュース
(ポッドキャスト)
対応デバイスiPhone/iPod touch
およびiPad互換、Mac、PC
対応OSiOS/Mac OS X/Windows

 昨年の繰り返しになるが(関連記事)、WWDCとは、今後1年間にアップルが「何を行ない」、「どういう方向に行くか」、同時に開発者に対して「どのような機能や環境を提供するか」、「どういったものを開発してほしいか」を指し示す重要なイベントだ。

 カンファレンスの全セッションがNDA(秘密保持契約)の対象になっており非公開だが、その一方で基調講演だけは慣例で広く公開されている。古くは「iMac」の登場、インテルCPUへの大移行、そして「iPhone」の発表など、アップルにおいて重要な製品/情報が発表されてきた舞台だけに、開発者のみならず一般的なMac/iPhoneユーザーからの注目度も高い。

 しかも、アップルがOS X系イベント「MacWorld Expo」への参加もやめてしまった現在では、WWDCの基調講演が定期的に発表を行なう唯一の場となっている(関連記事1関連記事2)。

 そのような状況を考えると、今年の基調講演に対して地味な印象を受けた方がいるかもしれない。しかし、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs) CEOが見せた世代交代の片鱗や、OS XとiOSというバランスの取れた二枚看板、そしてもうひとつの柱として「iCloud」が発表され、開発者に対して「新しいアップル」の方向性を示すのに十分な基調講演だったのではないかと思われる。

 ポイントは、WWDCは開発者向けのイベントで、基調講演はその幕開けを示すものにすぎないことだ。その実態は、NDAによって覆い隠されている。確かに、過去の基調講演が「iPhone 4」のような画期的製品の発表の場になったのは事実だが、決してコンシューマー向けのイベントではないことも事実だ。

 アップルによるメッセージの対象が、あくまで「開発者」である点を頭に入れて基調講演を読み解くと、その内容にさらに深く迫ることができる。

 それでは、ひとりの開発者として振り返ってみたい。

スティーブ・ジョブズ CEOの登壇—“アップルの再定義”が進行

 午前9時を少し過ぎた頃に、客席から強烈な拍手と歓声が沸き上がった。立ち上がって喝采を送る人が多く、最初は何か分からなかったのだが、舞台左側の幕からジョブズ氏が現われたためだった。

壇上に現われたジョブズ氏は、スタンディングオベーションで迎えられた

 長い拍手の間、それを実感するかのようにゆっくりと壇上に上がるジョブズ氏。

 冒頭に述べられたのは、WWDC 2011について。来場者数は昨年のWWDC 2010とほぼ同数の5200人にも上り、会場となっているMoscone Westの収容限界といえる。昨年はチケットの発売開始から8日間で売り切れて物議を醸したが、今年はさらに短く、たったの2時間で売り切れたことが明らかにされた(筆者の耳には2時間と聞こえたが、実際には8時間程度であったと記憶している。どちらにせよ、異例なまでに短時間だったことには変わりない)。

 これに関して、ジョブズ氏は「Sorry」と謝った。

WWDC 2011の参加者は約5200人ほど。ジョブズ氏は、チケットの発売開始から2時間ほどで売り切れたと話し、詫びていた

 そして、今回のWWDC 2011のフォーカスが「OS X Lion」、「iOS 5」、「iCloud」にあることを示した後に、OS X Lionの発表を行なうSenior Vice President World Wide Product Marketing フィル・シラー(Phil Schiller)氏に交代した。

最初にWWDC 2011のフォーカスが「OS X Lion」、「iOS 5」、「iCloud」にあることが示された

 筆者は、偶然客席左側の前列にいたのだが、階段を下りて幕間から裏に消えるジョブズ氏の背中姿が大変印象的であった。

幕間から裏に消えるジョブズ氏の背中姿が大変印象的だった

 OS X Lionの説明を行なうシラー氏の話し振りは軽妙で、デモとお笑いを担当したVP OS X Software クレイグ・フェデリギ(Craig Federighi)氏とのやり取りは、かつてジョブズが壇上で同じことを行なっていた2000年前半を彷彿とさせた(当時はシラー氏がデモとお笑い役)。

 退場するジョブズ氏と壇上で喝采を受けるシラー氏。まさに、この先のアップルを象徴しているといえよう。そう、彼の退場は巷で言われているようなアップルの終了ではない。シラー氏を初めとする次世代へと着実に世代交代が進められているのだ。

(次ページに続く)

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