歴史の重みを感じた、2時間超の試聴取材
LUXMAN試聴室で、ハイレゾと真空管、両極端のサウンドを体験 (3/6)
2011年03月11日 09時00分更新
真空管アンプは暖かで寝ぼけた音? そんなことない
まずは真空管グループから。今回聞いたパワーアンプのMQ-88uは、40年以上前に発売された銘機「MQ60」の復刻をコンセプトに置いている。つまり40年の歳月を経てMQ60の後継機の開発に取り組むという気の長い話が背景としてあるのだ。
ラックスマンのサポートのよさは定評があり、何十年も前に発売された機種でも、保守部品が残っている限り、最大限の努力で修理し、返してくれるという話を聞く。
そのため長年にわたるファンが存在し、MQ60を今でも現役で使っているユーザーもいる。しかしここに来て、メーカー側でストックしていた真空管(NECと共同開発した50CA10)が、いよいよ在庫切れとなってしまった。さらにこれまで実施していた、出力トランスの巻きなおしといったサポートも、当時使われていたタールを現在では廃棄できないといった問題があり、困難になっていた。
終段の真空管は、KT-88(スロバキアJJ製)を3結で左右2本ずつ使用する方式(プッシュプル)に変更しているが、上から見た際の、基本的なレイアウトはMQ60と同様。ただしデザイン面のリファインはあり、サイズは現在一般的な幅440mmに若干広がり、奥行きが2/3程度に減っている(205mmに対して185mm)。AB級増幅方式で、出力は最大25W×2。
ともすると「懐かしい音」「暖かい音」などの表現で語られがちな真空管アンプだが、「現代的な真空管アンプ」は、トランジスターのアンプと比べて遜色がないほど、ワイドレンジでスピード感のある音を奏でられる。
実はかつての真空管アンプの音を決めていたのは、真空管の特性というよりは、コンデンサーの特性であり、トランスの特性だった。中域が張り出したカマボコ型の周波数特性や、トランジェントの悪い緩やかな音の立ち上がりといったレトロな音は、それ相応のパーツを組み合わせないと実現できない。昔ながらの音を出す真空管アンプを開発するためには、オイルコンデンサーを使用するなど、あえて昔ながらの音を作る必要があるのだ。
真空管自体は、トランジスターが主流になった現代でも十分に反応の早いデバイスであり、ドライブ能力という点では問題はない。一方で、ソフトディストーションで、半導体ならクリップするような場合でも耳障りな歪みが生じにくいといった特徴もある。音を聴くと独特の透明感やエコー感と呼ばれる広がり感があり、半導体のアンプにはない生々しさ、豊かな音の色彩にハッとすることもある。
例えば今回試聴したArtPepper「Meets the Rythm Section」(ジャズ)。サックスの晴れやかで滑らかな質感には、後で聴いたハイレゾ版+半導体アンプの組み合わせとは趣の異なる魅惑的な響きを感じた。どちらも情報量や音離れの良さという点では申し分ないが、熱気というか躍動感とも言うべき、エッセンスが加わるのだ。
次にJacinthaの「HERE'S TO BEN」(LP重量版)。収録曲のダニー・ボーイは、オーディオショーなどでは定番のソースだが、冒頭のアカペラの美しさにハッと息を呑む。そしてクイーン「オペラ座の夜」からボヘミアン・ラプソディーを聴く。音が弾む、そして楽しい。アナログの楽しさを再認識させられた瞬間だった。
ちなみにMQ-88uのボンネットを外すと、電圧チェック用のピンが出てくる。保証/サポート外になるので注意が必要だが、知識がある人にとっては、球の交換など遊べる仕組みも用意されているようだ。入力2系統のうち、1系統はボリューム変更が可能なので、プリを入れず、パワーアンプ単体で利用する形態もありだろう。
一方、プリアンプのCL-38uは電動ボリュームを含めたフルファンクションで、MC/MMカートリッジ用のトランスを装備(MCは左右独立で、ハイゲイン/低インピが切り替えられる2段構成)。
また反りのあるレコードを再生する際に、スピーカーを痛めないようにするサブソニックフィルター(30Hz以下の周波数をカット)や、モノラルレコードをモノラルカートリッジで聴く人に向けたモノラルスイッチなども装備している。
この連載の記事
-
Audio & Visual
第7回 DYNAUDIO Confidence C1 Signatureを聴く -
Audio & Visual
第6回 LUXMAN試聴室で、ハイレゾと真空管、両極端のサウンドを体験 -
Audio & Visual
第5回 AirPlayで広がる、AVアンプの可能性 -
Audio & Visual
第4回 NP-S2000が切り拓く、高音質再生の地平 -
Audio & Visual
第3回 Hi-FiソースとしてのiPodを改めて体験する -
Audio & Visual
第2回 Hi-Fiとゼネラルの懸け橋──MAJIK DS-Iを聴く -
Audio & Visual
第1回 伝統のJBLを、総額ウン千万円のシステムで聴く -
AV
第回 こだわり機器を聞く、最上の試聴室めぐり - この連載の一覧へ