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こだわり機器を聞く、最上の試聴室めぐり 第3回

オーディオテクニカの高級ヘッドホン試聴記

Hi-FiソースとしてのiPodを改めて体験する

2010年10月05日 11時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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 国内外の有名オーディオブランドの試聴室を訪問しながら、ピュアオーディオの現在を知るこの連載。第3回はオーディオテクニカを訪問する。

第3回は御茶の水駅から徒歩5分。オーディオテクニカのアストロスタジオを訪問した

 オーディオテクニカの取り扱う製品は、プロの現場で評価の高い業務用マイク、レコード時代から続くカートリッジやフォノイコライザー、ケーブルを始めとしたオーディオアクセサリー。そして今回紹介する高級ヘッドホンやiPod関連アクセサリーである。

(ほかに寿司製造機というのがあるが、別記事に譲る。肥えたら後戻りできないという点で、舌と耳はよく似ている)

 今回は東京・湯島に構えられたテクニカハウス1Fにある「アストロスタジオ」で同社自信作を聴いた。


ピュアの第一歩はヘッドホンから

 プライベートな音楽空間を身の丈に合った形で実現する。ヘッドホンを中心としたシステムは、そんなコンセプトに極めてよくマッチする。

アストロスタジオ。天井が高く、開放的な空間。マイクテストなどに活用されている

 最近ではUSB DAC内蔵ヘッドホンアンプ、あるいはiPodデジタル対応機器などを活用することで、パソコンのHDDにため込んだ音楽データを高音質に聴く環境が整いつつある。

 オーディオシステムは、高級機種を買えばすぐにいい音が手に入るわけではない。ハイエンドに近付けば、近付くほど、実力を発揮させるにはそれなりの腕と知識が必要なのだ。適正な音量を得るためにはある程度の大きさの部屋が必要だし、スピーカーも適切に設置しなければならない。ソースの微細な音を再現するためには反響や遮音性のコントロールといった細かな配慮も必要となる。

 もちろん、巧みにセッティングされた二台のスピーカーから出る音には得も言われぬ魅力がある。広く自然な音場感と深い奥行きのある定位感、そしてこれらの組み合わせで実現される立体的な音像などは、その最たるものだ。音の振動が長い距離、空気を伝わっていく中で、微細な情報が増幅され、ソースの特性をよりハッキリと感じることもある。

 しかし、そのためには、上に書いたようにハイレベルな機器と聴衆環境、そして細心の調整の3つが揃わなければならない。もちろん余裕を持った財布の中身もその実現に必要だ。これがオーディオの敷居の高さにつながっている点は否定できないだろう。

 一方ヘッドホンなら、その1/10程度の予算でも満足度の高いシステムが作れる。部屋の問題やセッティングに頭を悩ます必要もなく、耳の間近で繊細に動くドライバーユニットの振動を感じながら、手軽かつ高音質な音の世界に没頭できるのだ。

 ピュアオーディオの素晴らしさを最初に体験するために、ヘッドホンはまさにうってつけの道具と言っていいと思う。


高級ヘッドホンと素材の関係

 オーディオテクニカは国内を代表するヘッドホンメーカーである。ゼネラルに近い実売1万円以下の製品から、大口径ユニットを採用した10万円を超す高級機種まで幅広い製品がラインアップされている。

ATH-AD2000。開放型で自然かつ伸びやかなサウンド

 ユニットから自社開発できる技術面でのノウハウに加え、特徴とも言える「ウィングサポート」(ヘッドバンドの調整なく、頭の形にフィットする機構)、そして長時間装着しても聴き疲れしにくい、軽量な本体などが特徴だ。

 一連の製品で、トップエンドに位置付けられるのが、直径53mmの大型ユニット搭載のモデルである。大きく分けて「開放型」(オープンエアタイプ)と「密閉型」の2種類があり、ハウジングの素材などを変えながら、狙う音にも差を付けている。

 今回試聴した製品では「ATH-AD2000」(8万4000円)が開放型。マグネシウム合金/アルミ合金を組み合わせたフレームは、装着しているのを忘れるほど軽く、開放型ならではの圧迫感のない音場がノビノビと広がる。

 密閉型では、微細な情報も忠実に再現できるモニターライクな表現を狙った「ATH-A2000X」(7万8750円)とウッドハウジングならではのアコースティックな響きを重視した「ATH-W1000X」(7万1400円)が用意された。

ATH-A2000X(左)と「ATH-W1000X」(右)。ともに密閉型のヘッドホンだが、ハウジングの違いにより、音の傾向は異なる

 ATH-A2000Xは剛性が高く、無駄な響きを抑制できるチタン合金のハウジング。デザインは、ヘアライン処理を施すなど、シャープな印象を与えるものだ。十分な容積が確保されていることもあり、密閉型のデメリットである圧迫感も少ない。

 実はこのチタン、硬く加工が難しい金属としても知られている。オーディオテクニカとしても、ハウジング内部での音の跳ね返りがよく、以前から関心を示していたが、採用までは時間がかかった。切削プレスなど加工精度の改善を待ち、満を持して市場投入した製品だという。

 同じ密閉型でも、ATH-W1000Xになると雰囲気がずいぶんと変わる。木製ハウジングは同社の特徴のひとつ。黒檀採用のハイエンドモデル「ATH-W5000」(12万750円)などもリリースされている。本製品ではブラックチェリーの無垢削り出し材が利用されている。

 ヘッドホンでは、至近距離にユニットが置かれていると言っても、当然振動したユニットは耳の逆側にも伝わり、それが反響して音に影響を与える。それが、ヘッドホンの出音を変えるのだ。


デジタル接続でiPodのデータを取り出す

iPodの音を純粋な状態でヘッドホンに伝える。そんなコンセプトで開発された「AT-HA35i」

 以上オーディオテクニカの上級ヘッドホンについて見てきた。

 それでは音の入り口=ソースに関してはどうしたらいいだろうか? ここで提案したいのがiPodを中心にした特徴的なシステムだ。

 オーディオテクニカは、今年2月に「AT-HA35i」(5万400円)というiPod専用のヘッドホンアンプを発表し、話題になった。

 制約のあるiPodのアナログ回路をスキップして、Apple Losslessなどで保存された情報を欠損なく伝え、192kHz/24bit対応の高品質D/Aコンバータ「AK4396」(AKM製)で、上質なアナログ信号に変換。さらに専用設計のヘッドホンアンプでドライブする製品である。

 同社ヘッドホンとのマッチングも当然配慮している。

デジタル/アナログ出力端子を備え、単品システムへの組み込みも可能

 AT-HA35iは据え置きを考えたシステムだが、外出先でもいい音を……と考えるなら、もうひとつ面白い製品がある。「AT-PHA30i」(1万2600円)である。こちらはDock出力のヘッドホンアンプとなる。

AT-PHA30i。マニアではひそかなブームになっているDock接続型のヘッドホンアンプ

 iPodに限らず、一般的なポータブルオーディオ機器のヘッドホン出力から出ている信号は意外にプアである。サイズおよびバッテリー消費を考えると妥協せざるを得ないところなのだろう。ただし、Dock出力では、同じアナログ信号でもヘッドホンアンプをパスしたLINE出力になるため、ロスが減らせる。この信号を取り出して、音質補正回路で適切な特性に直し、ヘッドホンに出力するのがAT-PHA30iである。

「TH-CK100」(左)のようなカナル型ヘッドホンや密閉型でもコンパクトな「ATH-ESW9」(右)あたりと組み合わせてはどうか

 電源はiPod側から取り、リモコン機能なども装備するため利便性も高い。これに「ATH-CK100」(価格5万6700円)のようなカナル型ヘッドホン、あるいは密閉型でも比較的コンパクトな「ATH-ESW9」(価格3万7800円)などを組み合わせば、外出先でのオーディオ環境がより充実したものとなる。

 特にATH-CK100は、繊細な表現が可能なバランスド・アーマチュアユニットを3つ内蔵(2ウェイ3ドライバー)したリッチな作りとなる。

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