人生、浪人でいいじゃないか 「地味アニメ」作る理由
行き場ないのは本当に不安? アニメで描く時代の闇 【後編】
2010年09月04日 12時00分更新
あえて「絞る」ことで力が発揮される
望月 毎回どの作品でも、小さいテーマをいろいろ作っています。今回の「さらい屋」で言うと、特に「色」ですね。「さらい屋」は、とにかく色数を少なくしたいという。現場でもそんなことばかり言っていました。
(C) 2010 オノ・ナツメ/小学館・さらい屋五葉製作委員会
―― 今はデジタル制作ということで、技術的にはたくさんの色が使えますよね。どうしてわざわざ色数を少なくされようとしたんですか。
望月 何ですかね……その方がかっこいいから、ですね。少し、締めたものをやりたいというか。数年前に「絶対少年」という作品をやったときも、背景にも人物にも「赤と緑を使わない」という制限を作ったんですね。赤と緑がない世界の中で、夏の緑を表現していく。そうすると、引き締まるんですよ。
―― 引き締まる?
望月 画面も締まるし、気持ちも引き締まりますよ。何でもかんでも派手な色を付けておしまいというのではなく、極力色数は抑える。「さらい屋」でも「この色は使っていいのかどうか?」というせめぎ合いが心の中で出てくるので、その葛藤ぎりぎりのところまで考える。すると、気持ちが引き締まる。
(C) 2010 オノ・ナツメ/小学館・さらい屋五葉製作委員会
―― 気持ちが引き締まることで、どんな効果があるんですか。
望月 今回は色数を抑えた画面作りでいくと。それを全スタッフに説明する必要はないんだけど、ただ、自分がスタッフの演出や作画の仕上がりをチェックをするときに、自分の中に「この作品は、こういう範囲で考えるんだ」という指針があると、上がってきたものがオーケーかNGかというのが、ぱっと分かる。
―― 色数など何でもフリーでできると、一見自由でやりやすく見えるけれども、本当は「制限」を設けるほうがやりやすい、ということでしょうか。
望月 やりやすいし、面白いです。その中で逆に、弥一の着物がピンク、というようなことが映えてくると思います。
制限をかける、抑える。そこに「さらい屋」の画面作りにおける美学が感じられる。自らの手で制限を設けることで、画面や気持ちが引き締まるという監督。自らを「独自路線」と言い、周囲を振り切って前に進む潔さには、「あえて絞る」ことがひとつの鍵になっているのではないだろうか。
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