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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 ― 第7回

変化はメインストリームではないところからやってくる

直球で「愛」とは言わない! 背中で語るアニメの美学 【後編】

2010年10月30日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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 愛している、とは言わない。「夏」「傷」の描写だけで、逃亡中の男への恋心をあらわす。

 分かりやすくセリフで感動させる手法を取らないのは、アニメ業界で1つの「挑戦」だった。そこに挑んだのは、40歳直前で脚本家デビューを果たした大西信介氏。1978年に日本映画の道に入り、19年後にアニメの脚本を担当した、異色の経歴の持ち主だ。

 「アニメの世界にはいないタイプ」(A-1 Pictures大松裕プロデューサー)と語られる大西氏のもう1つの持ち味は、曲者オヤジのような、「温度が低いキャラクター」を作ることだった。(記事前編はこちら

閃光のナイトレイド

 1931年、魔都「上海」。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦を経て、中国大陸へと進出した日本陸軍。その中に歴史上葬られた特殊スパイ組織「桜井機関」が存在した。桜井機関のメンバーは、主宰の桜井と、特殊能力を持つ葵、葛、棗、雪菜と花の名で呼ばれる四人の若者たち。覇権国家が群雄割拠する上海で、彼らは決して表舞台に出る事なく、様々な事件の裏で暗躍する。そんな最中、とある陸軍の一部隊が忽然と姿を消す。それはやがて世界を揺るがす大事件への序章だった――。オフィシャルサイトはこちら

脚本家・大西信介氏について

 1958年生まれ。北海道出身。脚本家。1997年「ウルトラマンティガ」の脚本でデビュー。主な作品に「キカイダー01 THE ANIMATION」「009-1」「DARKER THAN BLACK -黒の契約者-」「PERSONA -trinity soul-」「DARKER THAN BLACK -流星の双子-」など。


「曲者オヤジ」に気をつけろ

―― 「閃光のナイトレイド」では、桜井機関の主宰である桜井信一郎の描き方も印象に残りました。主人公の葵たちにとって、上司でありながら、味方なのかそうでないのか全くわからないという。

大西 顔はニコニコ笑っているんだけど、裏で何を考えているか分からないオヤジみたいなのを出そうと。桜井のいやらしさというか、何を考えているか分からない曲者ぶりは、松本監督からのアイデアも相当入っていますね。加東大介さんという、「七人の侍」や「陸軍中野学校」に出てくる役者さんがいるんですけど、そういう役者さんもイメージしたんですね。一見「いいオヤジ」に見えるけど、腹に一物ある。

 桜井に関しては、曲者ぶりをもっと見せたかったので、反省は残るんですけど。でも、私は中年男性を書くのがすごく好きなので、桜井を書くのがすごく楽しかったんですよ。

大西信介氏。アニメでの挑戦は「オヤジを描くこと」だった

―― いわゆる 「オヤジ」というのは、今のアニメでは、なかなか主役になりにくい存在ですね。なぜ中年男性を書くのが楽しいと?

大西 まあ、自分が中年だから書きやすいというのが一番にあるのかもしれませんが。でも中年男性は、確かにアニメの主人公にはならないですよね(笑)。なぜだか私の好きなものは地味になりがちで。本当はもっと、アニメのお客さんの口に合うように書きたいんです。キャラクター描写だって、主人公たちも含めて、もっと際立つようなキャラ立てを考えなきゃいけないなと。

 日本人の財閥要人が誘拐され、人質救出の命を受けた葵たち。だが、葵たちが知らされた目的とは別の意図で桜井は動き、事件は意外な形で結末を迎えた。同じ機関の人間でありながら、部下に秘匿する桜井のやり方に葵は抗議する。

葵  「……俺たちの目撃者を、消すのが目的じゃないでしょうね?」
桜井 「ふむ、流石に察しがいい。期待通りだよ。君たちの力はそれ自体、軍事機密だ。目撃者全員が死ななくても秘密が漏れる確率は少しでも減るに越したことはない」
葵  「……」
桜井 「君の胸におさめておけ。あの際、仕方ない。……田舎軍閥とはいえ兵士はどこで死ぬかわからんものだ……ご同様だよ、君達や僕も。そうは思わんかね?」
葵  「……」
桜井 「まあ、お陰で君らの有用性を上層部にわからせることができた。三方一両得。今度の事件がいい口実になったわけだよ。上にも国民党にも、そして我々、桜井機関にとってもな……」

(第1話「救出行」脚本より)

(次のページに続く)

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