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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第123回

「光の道」という名の所得再分配

2010年08月18日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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「あまねく公平」が非効率なインフラ整備をもたらす

 ユニバーサルサービスという言葉は、20世紀の初めにAT&T(アメリカ電話電信会社)が独占を守るためにつくった言葉である。それは全国一律にサービスするのみならず、一律料金でなければならないとしているが、その根拠は明らかでない。「生活必需品だから」というなら、食料品や住宅は全国で同じ価格にしなければならないのだろうか。電力やガスでさえ地域によって料金が違うのに、なぜ通信だけ一律でなければならないのだろうか。

 田中角栄以来、40年近くにわたって行なわれてきた「国土の均衡ある発展」という名による都市から地方への所得分配の結果、日本のインフラ整備の効率は非常に悪くなった。地方に人口が固定され、都市への人口移動が減少したことは、人口集中などの都市問題を緩和するメリットもあったが、サービス業の生産性を低下させる原因になった。

 光ファイバーは全国の90%で利用可能だが、実際に引いている利用者は30%しかない。大事なのは、必要もないインフラを全国100%に普及させることではなく、必要な利用者に低コストで高度なサービスを提供することである。

 これから日本は、アジアとの都市間競争の時代に入る。東京のライバルは大阪ではなくシンガポールであり、札幌のライバルは大連である。すべての地方を税金で養うことは、結果的にはすべての地域をアジアとの競争の敗者にし、日本からの資本流出や空洞化をまねいて国民全体が貧しくなる。

 今すでに日本のインフラは高コストで非効率であり、電力料金の高さゆえに「クラウド・コンピューティング」は日本では成り立たない。通信料金は高速で安いが、これはNTTとソフトバンクなどの競争によって実現したもので、政府の支援のおかげではない。そのソフトバンクが、国策会社で光ファイバーを整備しろと主張するのは救いがたい。

 ブロードバンドのユニバーサルサービスを義務づけることは、結果的にはそのコストをNTTに押しつけ、非効率な経営を温存する結果になる。いま必要なのは、政府が介入して全国あまねくインフラを整備させることではなく、有線/無線のプラットフォーム競争を促進して通信インフラを効率化することである。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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