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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第41回

HIV感染後にブログを始めた「遺言」さんの素顔

2009年01月26日 15時00分更新

文● 古田雄介

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反響は2ちゃんスレッド&温かいメッセージ

―― ブログを始めたあと、実際どんな反応がありましたか?

遺言 最初に想定したのは、罵詈雑言とまではいかなくとも「自業自得じゃん」と言われることです。実際、自分自身が若い頃に奔放に遊んだ結果のことですから、自分でもそう思っていますし。だけどそうやって責められるのが怖くて、最初からメッセージ受付やコメント欄を閉じていました。

 ただ、アメブロの仕組み上、アメンバー申請の受付だけは閉じられません。そこで申請してくださる方々のコメントは、「いつも読んでいます。励まされます」「自分もちゃんと生きなくちゃいけないと思いました」など、驚くほど温かいものが多かったですね。

 まあ、読者申請なので、好意的な反応が多いという面はあると思いますが。なかでも、ブログを続けて良かったと思ったのは「自分も検査を受けに行こうと思いました」「実際に検査に行きました」というメッセージです。そうやって、僕のブログを真剣に読んでくれている人がいると知ったのは、本当にうれしくて感動しました。

2008年8月1日から10月8日に渡る長期間のシリーズとなった「判決」。まもなく始まる裁判員制度と実際に起きたHIV絡みの殺人事件を元にした創作記事で、HIV患者と同性愛者、不倫などの要素が複雑に絡んだ事例について、読者に判決内容を考えてもらう意図で構成されている。終盤の判決場面の記事では、同ブログで初めてコメント欄を解放した


―― 2007年末にアップされた、1年を振り返る日記で「ぼくに励ましの言葉はいりません」と書かれています。温かいなかでも、同情されるのはやはり抵抗がありますか?

遺言 いえ、ありがたいですし、すごくうれしいです。だけど、これはやりはじめてから分かったんですが、「自分なんて恵まれている方なんだ」と痛感したんです。それからは「こんな自分に同情してくれなくていいから、読者の皆さんがそれぞれ抱えている大変なことに目を向けてくれれば」と思うようになったんです。なんだか申し訳なくて。

 感染が発覚したときは、変な意味で悲劇っぽく感じちゃいそうな気になっていました。「なんで僕はこんな希な病気に罹ったんだろう」って。だけど、病気になったあとで色々調べていくと、いわゆる難病と呼ばれる病気がたくさんあると知ったんです。国が指定する「特定疾患」だけで123種類あります。そのうち研究などに公的なお金を使ってもらえるのは45疾患だけなんですよ

 残りの78疾患は、ただ難病というだけで、サポートがあまり受けられないような状況です。その中でHIVは都道府県の認定が降りれば障害者手帳がもらえて、級数や市区町村によってはかかった医療費があとで返ってきたりします。

 あと、現在のところは僕の症状が軽いということも、同情していただくには気が引ける理由です。ただ、将来重篤になったとしても、公的なサポートが受けられるのはやはり恵まれています。ただ、「あなたは症状が軽いからそういっていられる」と言われると、何も言えなくなりますけど……。とにかく、今のところは「いや、僕は大丈夫ですから」という気になるんですよ。


―― なるほど。しかし、アンチがつかないのは良いですね。

遺言 いえ、2ちゃんねるには書かれました。始めて何ヵ月か経ったときに、僕のブログのスレッドが立って、ボロクソに書かれていることに気づいたんです。コメント欄がないぶん、そっちで書かれているだけでしたね。

 それを見つけたときは正直ショックで、「何を書いても叩かれる」と思うようになりました。感染発覚から通院まで、ある程度の過程までは絶対書こうと考えていましたが、ブログを進めていると2ヵ月のブランクが徐々に埋まっていって近況に近づくわけです。すると段々書きたくなくなってきて、辞めちゃおうと何度も思いましたね。

 それは単に2ちゃんねるで叩かれたからだけでなく、色々な理由があったんです。熱心に読んでくれる読者も増えましたが、そうなってくると記事を書くときに「こういうこと書くと、あの読者の人はきっと嫌な思いをするだろう」なんて考えるようになりまして。

 もともと人間関係が好きじゃなくて、その逃避で始めたようなネットの世界なのに、そこでも何か見えない糸で縛られているような感覚に陥りました。それなら全部断ち切っちゃいたいというふうに、ちょっと勘違い気味になっていた時期があったんですよ。


―― それでも更新を続けられる理由は何ですか?

遺言 自分のことだけを書かなくてもいいのかもしれない」と思えるようになったのが大きいですね。それで2008年は、実際に起きたHIV関連の事件をもとにした記事を長期的に書くことに重点を置きました。先ほどおっしゃられた「判決」シリーズもその一環です。記事が長すぎるっていう批判もありましたが(笑)

 (次のページ:自分が死んだあと、ブログは「遺言」として残すか?)

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