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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第37回

「第5権力」としてのウェブ

2008年10月07日 09時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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メディアの報道管制を破るウェブの世論

 こうした出来事は、これまであまり見られなかった。中山氏は、先月発足した「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」の会長就任あいさつで、「これまで著作権法を抜本改正するのは無理だと思っていたが、2004年のレコード輸入権問題で消費者の声が輸入盤を守ったことで、業者の方ばかり向いていた著作権行政が変わり始めた」と語った(関連記事)。

 このときは法案が閣議決定されてからウェブで反対運動が盛り上がり、議員連盟もできた。著作権法の改正は阻止できなかったものの「洋楽レコードについて消費者の利益が侵害された場合には本法を見直す」という付帯決議がついた。

 その後も文化庁は、ダウンロードの違法化や私的録音録画補償金の拡大など業者寄りの政策を出したが、すべて消費者の反対で葬られた。中山氏もいうように、今やユーザーはクリエイターでもある。一部の業者だけを「権利者」として保護する制度と文化庁の行政が、もはや時代遅れなのである。



すべての行政を「消費者の目線」で


 メディアは「第4権力」と呼ばれ、国家権力を監視する役割を果たすことになっている。しかしメディアを監視する機関はないので、彼らはその権力を使って業界の既得権を守ろうとする。特に日本ではテレビと新聞が系列関係になり、しかも各系列が横並びで報道管制して、電波利権や新聞の再販制度などの談合構造を守ってきた。

 しかしウェブは、こうしたメディアの情報独占に風穴を開け始めている。インターネットは、その生い立ちからユーザーによるユーザーのためのネットワークである。それは誰にも批判されないというメディアの特権を奪い、彼らの業界のタブーについても多くの消費者が追及する「第5権力」になろうとしているのかもしれない。

 福田内閣の打ち出した「消費者中心の行政」は、首相が途中で政権を投げ出したため、先行きが不透明になったが、消費者行政とは単に「消費者庁」を作ることではない。それは明治以来、「富国強兵」のために供給の最大化をめざして業者の利益をはかってきた行政を転換し、すべての官庁の行政を「消費者の目線」で行なうことなのである。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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