2011年にアナログ放送を止めるのは不可能?
第8回の記事には多くの反響をもらったが、その中に「本当に2011年にVHF帯は空くのか」という質問があった。これは私もブログなどで何度か書いたように、今のままでは無理だろう。というのは、今まで4年余りで売れた地上デジタルテレビは、約3000万台だが、あと1億台近いアナログテレビが残っていると推定されるからだ。どう計算しても2011年の段階で、少なくとも5000万台のアナログテレビが残る。
米国でも、当初はFCC(連邦通信委員会)が「2006年にアナログ放送を止める」としていたが、2009年に延期せざるをえなかった。今度は「跡地」になる700MHz帯の周波数オークションまでやったので、止めることは間違いない。しかしニューヨークタイムズによれば、来年2月にアナログ放送が止まる段階で、約600万台のアナログテレビが受信不可能になると予測されている。
米国では80%以上の世帯がケーブルテレビで見ているので、この程度の人数で済む。FCCはこうした視聴者に、地上デジタル放送をアナログに変換するコンバーターの購入に使える80ドルのクーポンを配る。このクーポンを600万世帯に配布すると、4億8000万ドル(約480億円)ものコストがかかるが、この財源は十分にある。FCCは700MHz帯の周波数オークションで196億ドル(約2兆円)もの収入を上げたからだ。
日本は移行コストの財源がない
ところが日本の場合、総務省はオークションを行なわないことに決めたため、同じような政策をとるための財源がない。「生活保護世帯だけにデジタルチューナーを配る」という案もあるが、これでは100万世帯だけだ。5000万台のテレビ全部にデジタルチューナー(またはクーポン)を付けるとして、米国のように1台8000円で済むとしても、4000億円もかかる。
2001年の「アナアナ変換」(アナログ局の周波数変換)のときは、その経費1800億円を電波利用料から流用した。これには、電波利用料の90%以上を負担している携帯電話業界が「携帯利用者の払った公費をテレビ局の私有財産に使うのはおかしい」と強く反対したが、総務省は強行突破した。もう一度、同じことをするのは許されない。しかも電波利用料は年間500億円程度で、4000億円ものコストをまかなうのは無理だ。
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