渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第27回

「ラストエグザイル‐銀翼のファム‐」千明孝一監督が語る、制作現場の壮絶な戦い

「GONZOブランド」を背負って立つアニメ監督の決意【前編】

重量級の仕事は、かならず次の仕事に活きてくる

――　“仕事に対する責任感”というのは、どのように生まれるものだと思いますか。

千明　その仕事を自分が背負っているという実感があるかどうか？ 自分がここまでやらなければ最悪どういう結果になるという想像力を持っているか？

　仕事への責任って、ひとりで抱え込んで個人だけが負うのでなくても良いと思います。近くにいる仲間でも先輩でも、“みんなで”話をして、想像して、時にはぶつかることで自分に足りないものに気づいたりしながら、一緒に作品を背負うことができればいいんじゃないかなと思います。

　今回「ファム」に関わった若い制作スタッフに対して、「できていないことがある」と僕は言いましたけど、彼らが「ファム」でできなかったことがあったら、次の作品に活かせばいいんです。自分の作りたいフィルムの水準を提示できて、良いスタッフを自分の力で集めた上で適材適所に配置する。この重量級のアニメ作品を経験したことは、きっと彼らの力になる。次は、彼らが作品を背負っているはずです。

――　「作品作り」や「チーム作り」は、ひとつの作品だけで終わるものではないのかもしれませんね。

千明　そうですね。ファムはいつも、「この人に何をしてあげれば喜ぶだろう？」と、一生懸命考えていた。ミリアを家に泊めたときも、世界で戦争が起きたときも同じで、「自分が何をしてあげれば、目の前の相手が幸せになるだろう」と。

　人が動いてくれるかどうかって、結局、まずは自分が動くしかないと思うんですね。そうやっていくと、みんながだんだん「この人や作品のために、自分にできることは何だろう」と考えてくれるようになる。全員じゃなくても、そんな人が自然発生的に出てくるようになったら良いなと思います。

（C）2011 GONZO / ファムパートナーズ

（後編に続きます）

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■著者経歴――渡辺由美子（わたなべ・ゆみこ）

　1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。

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