「ラストエグザイル‐銀翼のファム‐」千明孝一監督が語る、制作現場の壮絶な戦い
「GONZOブランド」を背負って立つアニメ監督の決意【前編】
2012年07月08日 12時00分更新
良い待遇ではなく、仕事に対する責任感でプロが集まる
―― 大変なこと?
千明 実は「LAST EXILE」のとき、失敗をしているんです。最初は物語のシリーズ構成を僕自身がやろうと思って第1話のシナリオも書いていたんですが、その後入っていただいた脚本の冨岡淳広さんに、初対面でこてんぱんに怒られました。名刺を出してお互いに「はじめまして」って言う前に、冨岡さんの第一声が「1話のシナリオ読みました。全くダメですね」でしたから(笑)。
―― それは強烈ですね。
千明 ビックリして、あいさつどころじゃなくなって。悔しくて、座ったまま机の下でこぶしを握りしめて30分ぐらい黙りこみました。その間みんな静かに待っていてくれて、その後トイレに行ってしばらく頭を冷やして戻ってきて「……じゃあ、話聞きましょう」、って。
でも、後で冷静に考えると、僕がダメだったのは確かで。シナリオをゼロから書くのは初めてで、アニメの20分間に入るシナリオの分量すらわかっていなかった。全否定も当然でした。最初にダメ出しをくれた冨岡さんにはすごく感謝しています。「ファム」でも活躍したディーオという強い個性を持った人気キャラクターを作ってくださったのも、冨岡さんです。
こうしたことも集団競技的な良さだと思うんです。チームや仲間のことを考えるから、お互い指摘すべきところは指摘する。「個人」も「会社」も同じだと思うんです。いいところも悪いところも指摘しあって、全部含めて「チーム」のために動くというところは。
……「ファム」では、フリーランスになったスタッフに“良い待遇”が提示できなくて、8年という年月が経ったにも関わらず、かつての「LAST EXILE」の主力メンバーの方々が集まってくれたんですよ。
―― 8年も経って、条件も揃わなかったのに、主要メンバーが集まってくれたのはなぜだと思いますか。
千明 勝手な想像なんですけど、1つには、今は「ラストエグザイル」シリーズのような大がかりな世界設定とストーリーを持つ作品は少ないので、関心を持っていただけたのかなと。「ああ、『LAST EXILE』の続編をやるんだ。スケジュールちょうど空くから、だったら手伝ってもいいな」と。それはたぶん、スタッフ皆さんの好意だと思います。
前作と同じクオリティーで作るには、時間や予算やスタッフや、いろいろのものが足りなかったけど、そんな状況の中でも、「銀翼のファム」という作品を、ちゃんとしたフィルムにしたいという思いだけで徹夜をして下さる人たちがいたんです。そういう人たちの持つ仕事に対する責任感に支えられ、放送したものがあの域までいけた。それが本当にうれしかったです。
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