このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

大河原克行が斬る「日本のIT業界」 第22回

デジタルネイティブにも活字を読む癖を

朝日新聞デジタルの勝算は販売所のやる気次第?

2011年06月06日 09時00分更新

文● 大河原克行

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

既存販売店との住み分けをどう実現するか

 だが、朝日新聞デジタルが、日経電子版との大きな違いは、朝日新聞には全国約5000のASA販売所があるという点だ。

 電子化には積極的な産経新聞も、日経新聞同様に専売販売所の数が少なく、電子化によって、紙の部数減少への懸念を持つ販売所にはそれほど配慮しなくていいという背景がある。

日本経済新聞社との違いに関しては、販売店への依存度という問題がある

 ところが朝日新聞の場合はそうはいかない。電子化に踏み出す一方で、販売店のビジネスを確実に守る必要があるのだ。

 そこで朝日新聞社が出した回答が、「紙とデジタルの融合」を追求しながらも、その一方で、「紙とデジタルは競合しない」という立ち位置だ。一見、矛盾するような言葉に聞こえるが、そこに朝日新聞の電子化戦略の狙いがある。

マルチデバイスへの展開を前提として、子供の活字離れを避けると言う狙いもあるようだ

 例えば、家族であれば複数のデバイスで読めるという仕組みは、対外的には「毎日宅配している紙の新聞は、家族がみんなで読むものであり、朝日新聞デジタルも同じ狙いから家族が読めるように複数のデバイスでみられるようにした」と説明するが、むしろ販売所にとっての拡販の重要な切り札と捉えた方がいい。

 というのも、「あと1000円足してもらえれば、普段新聞を読まない子供たちにも、持っているスマートフォンやPCに新聞情報を配信でき、読む癖がつくようになる」という提案ができるからだ。親にしてみれば、子供たちにも新聞を読ませる機会を作りたいだろう。親が出勤時に新聞をもって出かけても、家族はスマートフォンやタブレットで新聞を読めれば、月1000円というメリットは大きいだろう。

 紙の部数が減るなかで、1契約あたりの単価を上昇させるツールとして、デジタル版は重要な役割を果たすというわけだ。もちろん、ここで販売所が契約をとった分は、インテセンティブとして販売所の売上げに計上される仕組みだ。これまだ拡販のための打開策がなかった新聞販売所にとっても拡販のための戦略的ツールが生まれたということになる。

 さらに、紙の媒体の場合は、長期間の旅行や出張の場合、その期間、新聞の配達を止めてもらい、読まなかった分を日割りで差し引くといったサービスを行っているが、デジタル版はそうした値引きが必要なくなる。ここでも販売所にとってはメリットになるといえる。

 紙の部数が減少傾向にあるいまだからこそ、デジタル版にも販売所が乗り気になっているといえよう。

 「紙とデジタルの融合」を追求しながらも、その一方で、「紙とデジタルは競合しない」というのも、こうした背景があるからだ。

 日本経済新聞電子版は、2010年3月23日に創刊し、2011年4月には有料会員数が13万人を突破した。それに比べると、2012年度に10万人という朝日新聞デジタルの数字はやや慎重ともいえる。しかし、販売所が乗り気になり、その提案が加速すれば、この数字に短期間に到達する可能性もあるだろう。

 デジタル化の弊害とともされていた販売所をどう活用するか。朝日新聞デジタルの成長を支えるのは、実は販売所だということも事実ではある。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ