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大河原克行が斬る「日本のIT業界」第31回

シャープが国内メーカー初のAndroid4.0搭載スマホを発売できた理由とは?

脱ガラパゴス? 国内TOPのシャープが目指す世界戦略

2012年02月24日 17時04分更新

文● 大河原克行

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 2月24日、ソフトバンクモバイルから、Android 4.0搭載したシャープ製スマートフォン「AQUOS PHONE 104SH」が発売となった。

AQUOS PHONE 104SH
AQUOS PHONE 104SH。狭額縁設計により、スタイリッシュなフルディスプレイデザインを実現。RISING SUN、DEEP OCEANの2色を用意している

 日本の携帯電話メーカーとしては、いち早くAndroid 4.0へ対応。先行した韓国サムスンと比べても、わずか3ヵ月遅れでの製品投入へとこぎつけた。

 シャープ 通信システム事業本部グローバルマーケティングセンターの河内巌所長は、「シャープのスマートフォン事業への本気ぶりを示すもの」と、この製品に自信をみせる。

 この背景には、シャープの携帯電話事業における新たな組織体制などが大きく影響しているといえそうだ。

先行メーカーに3ヵ月の差で投入

 シャープは、国内携帯電話市場でトップシェアを維持している。MM総研の調べによると、2010年度まで6年連続でのトップシェアだ。

シャープ 通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 商品企画部 部長の林孝之氏通信システム事業本部グローバルマーケティングセンターの河内巌所長

 その実績を背景に、シャープは、フィーチャーフォンに限らず、スマートフォン市場においても積極的な取り組みをみせている。

 シャープ 通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 商品企画部の林孝之部長は、「フィーチャーフォンを使っているユーザーに受け入れていただけるように、まずは、国内で使用されている独自の機能をすべて搭載した、いわゆる『全部入り』スマートフォンの実現を目指して取り組んできた」と、これまでのスマートフォン戦略を振り返る。

 Android搭載スマートフォンとしては、初めてワンセグや赤外線対応、おサイフケータイ機能を搭載したのはシャープ。そのほかにも、2つ折りテンキーの搭載や、これまでのフィーチャーフォンユーザーでも電話帳やメールが使いやすいように工夫を凝らしてきた。

 「快適な操作性を実現し、基本性能で満足してもらえる、魅力的なスマートフォンの開発に挑戦したいと考えていた」と林部長は語る。

 だがその一方で、スマートフォン市場の広がりは、業界の予想を大きく超える形で広がっていった。予想外の広がりについては、シャープの見解も一緒だ。

 シャープ 通信システム事業本部グローバルマーケティングセンターの河内巌所長は、「国内の携帯電話市場が、これほどまでの勢いで、スマートフォンに一気にシフトをするとは思っていなかった」と前置きし、「モバイルデバイスに対する顧客の関心は急速に高まっており、スマートフォンに関する最新技術トレンドおよび製品トレンドをしっかりとキャッチアップすることが、メーカーにとって重要になってきている」と続ける。

 シャープが、使い勝手が向上したAndroid4.0をいち早く導入する方針を打ち出したのも、スマートフォン市場の急速な拡大と、ユーザーニーズの広がりに対応するという点では、不可欠な要素だったともいえる。

 「そのためには、従来の体制では限界がある。グローバル基準の開発体制を確立しなくては、先行できないと考えた」と、河内所長は語る。

 そして、その取り組みの最初の成果となったのが、今回のAQUOS PHONE 104SHだというのだ。

 「Android2.1では、競合他社から最初の製品が出てから11ヵ月後にシャープが搭載端末を発売した。Android2.3では6ヵ月に短縮した。これが今回のAndroid4.0では3ヵ月。日本の携帯電話メーカーでは、最初のAndroid4.0搭載製品の投入になった」(林部長)というわけだ。

グローバル商品開発統轄が担う役割とは

 では、どんな体制へと変更したのか。

 シャープは、2011年10月1日付けで、携帯電話事業を担当する通信システム事業本部に、グローバルモデルの企画および開発を推進するグローバル商品開発統轄を新設。その傘下に、ハードウェアの開発部門であるグローバル商品開発センター、ソフトウェアの開発を行うグローバルソフト開発センターを設置。グローバルモデルならではの共通仕様でのハード、ソフトの開発を行うとともに、北米の主要企業との連携強化、海外市場におけるマーケティング戦略などを担う戦略的組織として、グローバルマーケティングセンターを置いた。

 つまり、これまでの通信キャリアごとに最適化した製品を開発を行う「縦割」の事業部体制を残しながら、グローバルで通用する製品開発を行う「横串」の組織として設置したのが、グローバル商品開発統轄となる。

 「顧客重視型で、それぞれの客層や戦略にあわせた製品開発を行う事業部の取り組みだけではカバーできない部分もある。スマートフォン市場においては、井の中の蛙にならず、海外展開を視野に入れたマーケティング、開発を行う組織と組み合わることで、キャリア向けの製品づくりの視点と、グローバルでの製品づくり視点という、2つの視点からモノづくりを行える体制を構築した」(河内所長)というわけだ。

 とくに、グローバルマーケティングセンターでは、米サンノゼに拠点を開設。米グーグルや米テキサスインスツルメント、FaceBookといったスマートフォン市場におけるキープレーヤーの本拠地近くに拠点を置くことで、緊密な情報交換を行える体制を確立している点が見逃せない。

 「日本の拠点から情報を得るのには限界がある。キープレーヤーの近くに自ら拠点を置くことで、グローバルに展開する企業と同じように最新の情報を入手できる環境を確立した」

 AQUOS PHONE 104SHは、こうした環境をもとに開発した第1号製品ということになる。 スペック表以外の部分にこだわったAQUOS PHONE 104SH。

 2月24日から発売するAQUOS PHONE 104SHは、最薄部で8.9mmという筐体に、テキサスインスツルメンツのデュアルコアCPUである「OMAP4460 1.5GHz版」を搭載。有効画素数1210万画素の裏面照射型CMOSセンサーを採用し、薄暗い場所でも明るい写真が撮影できる。

 林部長は、「グローバルで先行するメーカーと競える、No.1レベルのパフォーマンスを持つ製品」とする一方、「単に処理速度の向上だけでなく、指で操作した際の追従性、サクサク感による心地よさを追求。使い勝手のいいデザインにもこだわった」と語る。

 指と画面の動きがストレスなく連携するシャープ独自のダイレクトトラッキング技術や、ラウンドフォルムのシンプルなデザインの採用も使い勝手を追求した成果である。

 ダイレクトトラッキング技術については、なんども改良を加えて、指の動きと画面の動きにおいて最適なバランスを実現。「他社には追随できないもの」(林部長)と自信をみせる。

 そして、下り最大21Mbps、上り最大5.7MbpsのULTRA SPEEDをサポート。1280×720ドットの4.5インチHD液晶による高精細画面も大きな特徴だ。

 さらに、IPX5/7およびIP5Xクラスの防水・防塵を実現。シャープならではの省エネ技術「エコ技」の採用により、長時間の待ち受けにも対応できるようにした。

 「シャープならではのAndroid4.0搭載スマートフォンを、世の中に送り出すことができた」とする。

 実は、今回のAQUOS PHONE 104SHでは、おサイフケータイおよびワンセグ機能が搭載されていない。その点では、これまでの「全部入り」を指向していた戦略とは若干異なる製品だともいえる。

 林部長は、「今後、Android4.0を搭載した全部入りの製品も投入を検討している」としながらも、「AQUOS PHONE 104SHの開発に当たって、もう一度原点に立ち返って、顧客ニーズはなにかということを考えた」と語る。この議論が行われたのは昨年秋のことだという。

 「最新のプラットフォーム、最高のパフォーマンスを実現することは目指すものの、スペック競争に陥らないこと、操作性のレスポンスを重視し、使い勝手を重視することに力を注いだ。スペック表には表れない、目に見えないところに力を入れた」とする。

 Android4.0を搭載したAQUOS PHONE 104SHの購入者は、まずはITリテラシーが高い、30代の男性などが想定される。先進的な技術を搭載した端末をいち早く投入するという観点から、必要最低限の機能を搭載するという判断をしたことも、今回の製品で特筆すべき取り組みだ。

 ユーザーターゲットを明確にした上で、必要な機能だけを搭載し、いち早い市場投入を行った製品というわけなのだ。

AQUOS PHONEを世界で通じるブランドに

 「グローバルマーケティングセンターを設置して以降、社員がグローバル視点で物事を考えるようになったこと、そして、共有する技術情報、マーケット情報の質が大きく変化した。これまで以上に現場との密着度が高まり、顧客の目線で物事を考えるようになったのも大きな変化だ。まだまだ改善していくところはあるが、この組織の存在が、明らかにシャープのモノづくりを変えている」と河内所長は語る。

 実は、グローバルマーケティングセンターには、もうひとつの役割がある。  それは米国市場における展開に向けたマーケティングである。すでに米国市場においては、AT&T向けに携帯電話を発売しているが、これまではそれほど戦略的な展開を行ってはいなかった。

 「米国のキャリアも日本のメーカーならではの違う視点での提案を求めている。サンノゼの拠点を通じて、市場動向を把握する一方で、シャープが日本で築いた販売実績を生かした提案を行っていくことになる」(河内所長)という。

 重点市場となる中国向けに関しては、中国の統括会社が主導となって、ローカルフィット型の製品づくりを、ODMを活用して推進していくが、日本の開発チームによる付加価値型の製品も、中国市場向けにカスタマイズして投入。ここにグローバル視点のモノづくりを一部反映することになるという。

 こうしたグローバル視点でのマーケティングの取り組みによって、現場の声が、直接モノづくりに反映するという効果にもつながっている。

 「最新の技術情報を入手するというメリットだけで突っ走っていては、技術先行のモノづくりになってしまい、ユーザー不在の製品が出来上がる可能性がある。メーカーのひとりよがりの製品を作らないためには、ユーザー視点が必要。いくら先行した技術でも、マーケティング担当者がおかしいと思った部分はおかしいといえる環境を作って置くことが必要」と河内所長は語る。

 グローバルマーケティングセンターが、最新技術情報の入手だけでなく、現場におけるマーケティング活動によって、顧客の声を収集する役割を担っていることは、顧客視点のモノづくりという点で重要な要素だといえよう。

 グローバルマーケティングセンターが動き出したことで、シャープのスマートフォンは大きく変化したのは事実だ。

 そして、この組織を率いる河内所長の夢は大きい。

 「どの国にいっても、AQUOS PHONEと聞けば、誰もがシャープのスマートフォンであることがわかるところにまでブランドイメージを引き上げたい」

 そして、林部長も「このAQUOS PHONE 104SHによって、シャープが変わったということを知ってもらいたい。そして、AQUOS PHONEのブランドイメージを再構築していきたい」と意欲をみせる。

 まずは日本での成功がその一歩となる。それはAQUOS PHONE 104SHが担う大きな役割だ。そして、それを土台に、世界のスマートフォン市場において、AQUOS PHONEというブランドが通用する環境の構築に向けて動きだすことになる。いよいよ世界戦略の本当の第1歩がスタートしたともいえる。

訂正とお詫び: 掲載時写真とキャプションに誤りがあったため、修正しました。(2月4日)

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