渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 ― 第14回
恐怖ですぞ~!その「世間様」とは何でござるか!
これがオタクの生きる道!「海月姫」監督に聞く【前編】
2011年02月19日 12時00分更新
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(C)東村アキコ・講談社/海月姫製作委員会
オタクであることを隠さずに生きたい。そう思っている人は多いのではないだろうか。
地味な服を選び、仲間とどこかに集まり、忍者のように素顔を隠して生きる。それが一般的なオタクのイメージだ。それにコンプレックスを抱くのはオタク男子に限った話ではない。女子にもオタクはいる。むしろ最近は女子の方が強力かもしれない。アニメのミュージカルに通い詰める女性もいれば、武将に萌える「歴女(レキジョ)」と呼ばれる女性もいる。インターネットで男性の「歌い手」が人気を集めているのもそのひとつだろう。
そんな女子目線で、オタクの生態をかわいらしく描いたアニメがある。東山アキコさんのコミックが原作の「海月姫」(くらげひめ)だ。世間との温度差に悩む女子たちが絶妙に「痛くない」バランスで描かれ、共感を呼んだ。いわゆる「あるあるネタ」が、ここまでオタク心をつかんだのはなぜなのか?
監督・大森貴弘氏の目線には、オタクへの静かで確かな愛があった。いまオタクとして堂々と生きるために知るべきことは何なのか――その優しいオタク論をじっくりと聞く。
「海月姫」あらすじ
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男子禁制のアパート「天水館」。そこには、筋金入りのオタク女子たちが暮らしていた。クラゲをこよなく愛する主人公・倉下月海、着物や人形などの和モノが好きな千絵子、三国志マニアのまやや、鉄道ヲタのばんばさん、枯れ専のジジ様。自らを「尼~ず」と呼ぶ彼女たちの、風変わりでマニアックながらも幸せな日々は、ある日現われた美しい女装男子・鯉淵蔵之介によって、少しずつ変化していく。オフィシャルサイトはこちら
大森監督について
1965年生まれ。東京都出身。1984年スタジオディーンに入社。フリーのアニメーターを経て、実写映像制作のディレクターに転向。その後アニメーション制作に復帰し、「赤ちゃんと僕」で初監督。主な監督作に「地獄少女」「BACCANO! -バッカーノ!-」「夏目友人帳」「デュラララ!!」などがある。
―― 「海月姫」は、いわゆる「オタク女子」を描いた作品ですね。オタク男子ものはいくつかアニメ化されましたが、オタク女子にフォーカスを当てたアニメというのは珍しいと思いました。
大森 確かにあまり見ないですね。もともと僕は東村アキコ先生が描かれる漫画が好きで。個性的なキャラクターとか、ギャグとドラマチックな部分と落差とかが非常に面白いなと。「海月姫」もそこは同様でした。
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大森貴弘監督 |
―― 「海月姫」は、オタクらしさというものがコミカルに、けれど核心を突いて描かれていたところが印象に残りました。
大森 原作がその辺り、オタクの言動が抽象化されて描かれていますよね。アニメでも表現してみたんですが、たとえば「石化」とか。尼~ずは、自分たちが苦手なものに出会うと固まってしまう。月海が「オシャレ人間」の蔵之介から、「もしかして……処女?」と聞かれたときも石化してましたし。
それから、「一本調子喋り」。月海ならクラゲのこと、千絵子さんなら日本人形とか、ふとしたきっかけで、相手が聞いていようが聞いていまいが、止まらなくなるほどひたすら語り倒してしまう。
コミュニケーション下手だからというのもあるとは思うんですけど、ただとにかく自分の思っていることを伝えなきゃと焦ってしまうのが強いと思います。きっと必死の抵抗なんですよね。理解してくれてないだろうから、とにかく早くすべて伝えなきゃという、切羽詰まった思いのほうが強くてそうなってしまう。
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(C)東村アキコ・講談社/海月姫製作委員会
―― なるほど。私もよくわかります(苦笑)。
大森 ちゃんと相手とコミュニケーションが取れているときは、たぶん普通に順を追って話せるんですよ。目の前の相手に、自分の好きなものへのこだわりなんて、きっとわかってもらえない。きっとコミュニケーションは取れないんだと思っちゃうから、そうなっちゃうんじゃないかなという気がしていて。
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