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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第130回

NTTの「構造分離」よりも通信ビジネスの「構造改革」を

2010年11月24日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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もしIBMが構造分離されていたら……

 アメリカには、こんな笑い話がある――FCC(連邦通信委員会)のほかに、第2FCC(Federal Computer Commission)という独立行政委員会があってIBMを規制していたら、今ごろどうなっていただろうか。

 第2FCCは「IBMの独占によって競争が阻害されている」として、IBM分割を求める訴訟を起こし、1964年に連邦最高裁で勝訴した。その結果、IBMは「ホストコンピュータ会社」と「端末会社」に構造分離され、すべての端末業者はIBMへのホストに法律で決められた料金でアクセスできることになった。端末の競争は激化したが、ホスト機がボトルネックになっているため、政府はIBMにホスト機の増強と接続料金の引き下げを求める……。

 このようにIBMの大型機を安く提供する規制が続けられていると、それ以外のPCのようなイノベーションが生まれにくい。同じことが、NTTの光ファイバーにも起こっている。NTTの光回線の卸売料金は約5000円で世界でもっとも安い。このため自前で光ファイバーを敷設するよりもNTTの回線を借りてサービスを行なうことが有利になり、USENのような独立系のインフラ業者は撤退してしまった。

 固定回線のようにインフラをもつ業者に別の業者がぶら下がって競争する市場は、きわめて変則的な構造である。自由な競争がないため、政治的な力関係で料金が決まり、古いアーキテクチャが固定される弊害が大きい。インターネットが普及してから15年以上たっても、NTTは加入電話回線をやめることができない。もしPCがIBMの大型機の付属品として売られていたら、イノベーションは起きなかっただろう。

 そのPCでさえ、マイクロソフトという支配的なプラットフォームにアプリケーションがぶら下がる市場になると、問題が発生した。このようなプラットフォームに対して、常に新しいプラットフォームがチャレンジできる自由な市場が必要だ。この場合、同じ階層でマイクロソフトに代わるOSが出てくることは困難だが、インターネットという新しいプラットフォームができ、そこでグーグルが成長するとプラットフォーム競争が起こる。

 つまり問題はNTTの構造分離ではなく、規制に依存しない新しいプラットフォームを創造する構造改革なのだ。通信の場合、それは無線である。IBMは今でも大型機の市場では独占企業だが、大型機の市場そのものに意味がなくなった。同じように、NTTが光ファイバーで支配的であっても、周波数が十分供給されれば、高速無線とのプラットフォーム競争が起こり、光ファイバーは大型機のような時代遅れのインフラになるだろう。だから問題はNTTの経営形態ではなく、電波の開放なのである。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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