軍歌はカット&ペーストされる「道具」
―― 旧日本軍だと「殺せ」という歌詞がよく耳に入ってきますが、外国語の軍歌だと、メッセージのインプットが直接的ではなくなる気がします。それでもやはり歌詞に注目するわけですか。
reichsneet やはり歌詞が面白いですね。海外の場合は、まずは原文の歌詞を調べて、それを翻訳していきます。海外の音楽CDは歌詞カードがついていない場合が多いので、海外の歌詞サイトで調べたり、古書店サイトとオークションサイトから当時の歌詞集を購入して参考にしたりしています。あとは、曲を聴いて耳を頼りに単語を探ったり。
ただ、ここが軍歌の奥深いところでもあるんですけど、収録した時期によって歌詞が異なることがよくあるんですよ。たとえば、英国国歌の「God Save the Queen」も現在は3番までしか歌われませんが、実は18世紀には7番まで作られていて、6番には「暴虐なるスコット人を撃滅せん」のように、当時の対立状況を反映した過激な部分がありました。
ナチス軍は侵略した国の若者を軍に動員するため、元の歌詞や言語を変え、ローカルバージョンを大量に作っています。だから、「歌詞集と音源」それぞれの発行年や地域などを照らし合わせる必要が出てきます。そうした変化をたどるのも面白いんですよ。
―― なるほど。その時その時の政府や団体が送りたいメッセージを盛り込むから、ひんぱんに変化するんですね。
reichsneet そこが軍歌の特異なところですね。軍歌は芸術作品ではなく、ハサミやナイフと同じ「道具」なんです。国民を動員するための装置として作られているので、歌詞が古くなって役に立たなくなったらゴミになってしまうわけですよ。だから、整い方や芸術性みたいな意識はなく、ときとして無茶苦茶な歌詞が出来上がったり。
とくに国情が窮しているときは、どこも狂気に満ちてくるので、興味深いんですよね。旧日本軍も情勢が悪化した頃に、「神風が吹いて米国を撃破」みたいな電波チックな歌詞が登場しました。それでも当時の国民を動員する装置としては役に立ったか、役立つことを期待されたから現存しているわけで、そのあたりの事実も面白いですよね。
―― 軍歌を当時の各国の「みんな、こう思おうぜ!」というナマのメッセージだと考えると、確かに興味深いですね。国によって違いがあったりするんですか?
reichsneet ありますね。俯瞰してみると、アメリカやイギリスは自由や平等を前面に打ち出す軍歌が多いんです。「俺たちの自由を守れ」といった権利的な概念ですね。ナチスや旧日本軍は「我が民族の誇りを~」のように、民族や血統といった土着的な概念を強調する傾向があります。
その一方で、フランスは共産主義の代表歌ともいえる労働歌「インターナショナル」を生んだ国ながら、ナチスに協力していた時代には当時のトップのペタン元帥を称える独裁的な雰囲気のある歌が大量に作られたりしていました。
―― かなり知的好奇心をそそられてきました(笑)。私がサイトを拝見して、スゴイと思ったのは、この調査に裏付けられた情報の深さなんです。「趣味として」軍歌に接するスタンスながら、「ここまで調べればいいや」という甘えが一切ないですよね。
reichsneet 結局、オタクなんだと思うんですよ(笑)。オタクって自己満足なんだけどむちゃくちゃ深く掘るんですよ。詳しい人に何か指摘されても、自分の領域では負けないように知識を蓄えるというか、そういうのを目指しているところがあります。
「趣味として」という枠を作って宣言したのも、自分が興味を持って掘り下げられる領域を自分で決めたかったというのがあるんです。たとえば、先の「インターナショナル」みたいな労働歌は軍歌ではないという人は多いと思うんですけど、自分としては軍歌と同じように興味が惹かれるから扱いたい。さらに言えば、アニメソングの中でも軍歌っぽいものは他人に何言われても「軍歌」に入れちゃおうと。
もう一つは、政治思想だったり歴史資料だったりというスタンスで軍歌を扱う人とは別のスタンスだと伝えておきたいという意味合いですね。別に政治思想に興味ないですし、歴史研究をして文化遺産としての軍歌をまとめるみたいな大それた野望もないですし。
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