共通番号の導入が緊急に必要だ
使えない電子申請の典型が、納税申告に使うe-Taxである。国税庁は昨年の税務申告でのe-Tax利用率は33.6%になったと発表したが、この数字は分母を過少にとって水増ししたものだ。e-Taxに必須である住基カードの普及率が2.7%(今年3月末)しかないのに、e-Taxの利用率がそれほど高いはずがない。私の知人も今年の申告で使おうとしたが、システムをインストールするのに3日もかかったという。
しかも日本には納税者番号がないため、支払調書や領収書が膨大になり、その名寄せも困難なので脱税はやり放題だ。納税者番号や社会保障番号については、10年以上前から導入が検討されているが、「私は番号になりたくない」と主張する櫻井よしこ氏などの「市民運動」が住基ネットの導入にも強硬に反対したため、官庁はすっかり腰が引けてしまい、日本は先進国では唯一、国民共通番号がない。
また各省庁ごとのCIOはいても、霞ヶ関全体を統括する情報システム部門がないため、同じような機能のレガシーシステムを各省庁が重複して別のITゼネコンに発注し、それを継ぎ足して改造を重ねるため、社会保険庁のように誰にも全体像のわからない怪物的な巨大システムができてしまう。それを共通化しようとすると「わが省のシステムで統一すべきだ」と各省が主張して話が進まない。
民主党はマニフェストで「所得の把握を確実に行うために、税と社会保障制度共通の番号制度を導入する」と公約しているので、これを早急に実施し、システムを統一することが第一歩だ。その場合、新規に番号を振る必要はなく、現在の住基データを使えばよい。また各省庁のレガシーシステムは捨てて官邸主導でPCベースのオープンシステムに切り替え、ERP(統合型情報システム)で統一すべきだ。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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