会見の開放を阻止する読売新聞
しかし外務省と金融庁以外の記者クラブは、かたくなに門戸を開こうとしない。関係者の話によると、 クラブによっては「開放してもいいんじゃないか」という意見もあるが、どのクラブでも読売新聞の記者が反対するという。金融庁の記者クラブ(財政研究会)でも、読売が反対したため、記者会見を2回やることになった。外務省(霞クラブ)の場合も読売が反対したが、会見の主催者が外務省だったため、岡田外相の命令で会見が開かれ、読売以外の社がすべて出席し、最後に読売も出席したという。
他のクラブも同じような状況で、規約改正は全員一致が建前なので、読売一社が反対すると開放できない。これは個々の記者の意見ではなく、会社上層部からの指示だという。読売新聞の渡辺恒雄会長はAERAの9月28日号で、野党時代の鳩山由紀夫氏に次のようにアドバイスしたと発言している。
民主党政権が行なおうとしている記者クラブ開放問題についても、セキュリティ上どうなんだと。「ホワイトハウスは誰にでもオープンにしている」と言われているけれども、それは嘘だ、とね。我々記者がワシントンに赴任したときは、パスが出るまで6ヶ月も待たされる。
セキュリティが問題なら、記者クラブのほうが危険だ。金融庁でも、一般のジャーナリストは空港のような厳重な身体検査を受けるが、記者クラブ加盟社の社員は、記者証さえ出せばフリーパスだ。セキュリティなどというのは、開放を拒む口実にすぎない。確かに一般人を無制限に入れたら問題が起こるだろうが、一人一人チェックして選別するしかない。それが言論の自由というものであり、世界の他の国はみんなやっていることだ。
記者クラブが開放を拒否する理由としてよく持ち出すのは、「かつては官庁は情報を明かさなかった。それを記者クラブが結束して公開させたのだ」という半世紀以上前の話だ。しかし今、情報公開を拒んでいるのは記者クラブだ。かつて彼らが役所に対して要求した「知る権利」を、今ネットメディアがマスコミに要求しているのである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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