みんなの意見が正しいとは限らない
ブログが出てきたころは、アメリカの大統領選挙にも活用され、こうしたWeb2.0が、多くの人々の意見を政治に反映する道具になるのではないかという期待もあった。梅田望夫氏が『ウェブ進化論』で「みんなの意見は案外正しい」というスロウィッキの言葉を引用して「集合知」の威力を宣伝したのを覚えている人がいるだろうか。
テクノラティの末路が示しているように、みんなの意見を単純に集計しても何の価値もない。それをランクづけする「はてなブックマーク」も、今や本来の意味は果たしていない。ブックマークするだけなら、ブラウザやGoogle Toolbarのブックマーク機能のほうがはるかに便利だ。はてなブックマークに集まっているのは他人の悪口を言いたいだけの連中で、これも2ちゃんねると同様のゴミの山になっている。
誰でも参加できるメディアでユーザーが増えると、ノイズが増えて最後はメディアが消えてしまうという現象は過去に何度もあった。「市民ラジオ」もノイズに埋もれて消えてしまったし、インターネットの初期の主流だったネットニュース(USENET)も、喧嘩と悪口の場になって誰も使わなくなった。大事な情報とゴミを区別し、意味のある情報だけを届けるしくみを実現しないと、ブログもメディアとして衰退するだろう。
この点で、ブログより簡単に参加できるTwitterでブログよりノイズが少ないのは、ウェブの今後の方向を示している。実名ではなくても、固定ハンドルネームで評判を守るインセンティブがあれば、匿名ブログより質の高い言論空間ができる。アマチュアによる「草の根民主主義」が世界を変えるなどという幻想を振りまいたブログ1.0が、テクノラティとともに終わるのは健全なことだ。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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