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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第7回

撤退が価値を生み出す──「総合電機メーカー」はもうやめよう

2008年03月11日 10時30分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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「パラダイス鎖国」の弊害


 第二の原因は、国内競争に特化していることだ。日本の総合電機メーカーは、会社の規模は大きいが、個々の部門は大きくない。例えば、携帯電話の最大手、フィンランドのノキアは昨年、約3億5000万台の端末を生産したが、日本のメーカー11社を合計しても1億台に満たない。

 国内市場がそれなりに大きく、日本語の壁に守られた「パラダイス鎖国」(アスキー新書)で中規模の企業が共存して世界市場に出て行かないため、国際競争力がないのだ。特に通信/コンピューターは、日本メーカーを全部合わせても世界市場のシェアが数%という壊滅状態だ。

 IT産業では、ムーアの法則によって設備は急速に陳腐化するから、常に最新技術を導入し、優秀な技術者を投入しないと競争についていけない。特に優秀な技術者の数は限られているので、その戦力をいろいろな部門に分散すると、すべての戦線で負けてしまう。



資本の論理による再編が必要だ


 この状況は、1980年代の米国とよく似ている。当時も、巨大化したコングロマリット(多角化企業)の業績が低迷し、経済が行き詰まっていた。こうした企業を投資ファンドが買収し、不採算部門を売却することによって大きな利益を上げた。当時、彼らは「ハゲタカ」とか「略奪者」と非難されたが、結果的にはこうした企業の解体と再編によって、米国経済は息を吹き返した。

 その原因は、過剰設備と余剰人員を削減して資本効率を上げると同時に、そうした資本や人材を最も有効に使える企業に集約することによって規模を拡大し、国際競争力を高めたからだ。この結果、一時的に解雇も行なわれたが、長期的には雇用は増えて米国の失業率は下がった。

 経済学の言葉でいうと、IT産業では要素技術が国際的に標準化されているので、多角化して自社向けに部品を生産することによる範囲の経済はほとんどないが、ソフトウェア開発などの固定費が大きくなっているので、規模の経済は大きくなっているのだ。両者を「収穫逓増」などという言葉で混同すると失敗する。

収穫逓増 生産規模が大きくなると、それに伴って生産が効率化されて、生産量も増えるという法則。「しゅうかくていぞう」と読む。

 だから日本の電機メーカーのように「薄く広く」多角化するのではなく、競争力のある分野に経営資源を集中して規模を拡大し、場合によっては他社を買収すると同時に、赤字部門は売却する資本の論理が必要だ。

 この意味で、国内でも資本市場を整備して企業買収・売却を進めると同時に、外資の導入を進めて「資本開国」することが、電機メーカーの──そして日本経済の──生き残る道である。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



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