業務を変えるkintoneユーザー事例 第34回
「kintoneは業務を自動化するまでのサポーター」と語る片山氏
kintone活用で空いた時間を得意領域にフォーカスするソラコム
2018年07月12日 11時00分更新
2018年6月14日に開催されたkintoneのユーザーイベント「kintone hive tokyo」。5社の事例発表があるなか、今回は4人目の登壇となる株式会社ソラコム 執行役員 プリンシパルソフトウェアエンジニアである片山暁雄氏のプレゼンを紹介する。テーマは「スタートアップ企業のkintone利用法」だ。
IoTとは物理的な世界のデジタル化
ソラコムはIoTプラットフォームを提供するリーディングカンパニーのひとつ。2015年にスタートアップとして創業し、設立3年目。IoT向けの格安SIMを提供しているイメージがあるが、IoT関連の幅広いサービスを提供しているのが特徴だ。
「IoTと言う言葉には色々解釈があるのですが、私は、物理的な世界にあるモノがデジタル化されることだと考えています。モノがデジタル化されると多くの恩恵が受けられます。たとえば、紙に書いたモノがデジタル化されると便利ですよね。集計したり、グラフにしたり、何かあったら異常を検知したり、さまざまなことをコンピューターで処理できるようになります。IoTは、今みなさんがやっていることを、通信を使ってリアルタイムでデジタルデータに反映させることの総称だと考えています。おそらく将来的には、重要なビジネス基盤になると思っています」(片山氏)
手作業から完全自動化までのステップで柔軟に運用できるkintone
まずは、ソラコムの事例を紹介してくれた。九州の養豚場「協同ファーム」では、数千頭の豚を飼育していたが、社長が同じ従業員数で2倍の豚を飼いたいというビジネス目標を掲げたという。当然、豚の数が2倍になれば、業務も2倍になる。従業員数を増やさないのであれば、業務効率の改善が必須だ。
「そこでIoTの技術を使いました。たとえば水の流量を継続してデジタルデータ化しておくと、水圧が下がったことがわかります。水道管が割れているということなので修理に行きます。点検をしなくても、壊れたら通知が来るような仕組みを作ったのです」(片山氏)
協同ファームの人たちはもともとはITに詳しいわけではなかったそう。しかし、現在はITを使う敷居がとても下がってきている。クラウドやデバイスが安くなり、プラットフォームも充実してきているので、専門家でなくても、ビジネスの効果が出るまでトライアンドエラーを繰り返しやすくなっているという。
そんなサービスを提供しているソラコムは、現在50人体制になっている。そのほとんどがエンジニアということで、システムを作ろうと思えば作れる人材が揃っている。しかし、グロースエンジニアはkintoneの導入を決定した。社員が10人の頃、創業した2015年冬のことだった。
「会社を大きくしていく方法はいくつかありますが、我々は投資ファンドからお金を入れてもらって一気に成長する作戦で7億円を調達しました。サービスを開始したころの社員数は10人くらいで、やっとお客さまに使って頂く部分はできたのですが、サービスを大きくするためのシステムがありませんでした。そこでグロースエンジニアを雇いました。単にシステムを作るのではなく、会社を成長するための仕組みを作る役職です。2015年12月、彼がkintoneを使うことを決めました。いくつかのツールを見て、kintoneが使いやすそうということで選びました」(片山氏)
7億円調達したものの、片山氏にはお金には見えなかったそう。残高は会社のヒットポイントというノリでゼロになると終了。その前にソラコムのプラットフォームを大きくする必要がある、そこで考えたのは、あらゆるものを自動化することだった。スタートアップなので、人手は限られている。反面、元がゼロなので業務をイチから作ることはできるのはメリットとなる。
「たとえば、ある仕事を自動化するときにすごい工数をかけても、実際には手動でやった方が早いのではあまり意味がありません。手作業でやるところから、完全に自動化するまで、色々ステップがありますが、落としどころを見つけられるツールが必要で、kintoneはまさにこの部分をうまく柔軟にこなせるツールでした」(片山氏)
ソラコムのサービスを企業で利用する場合、請求書払いにしたいというニーズがある。従来は、スタッフが手作業で登録していたが、片山氏はここの自動化にチャレンジした。ウェブサイトから申し込んでもらうとその情報は自動的にkintoneに登録される。ここはAPIを使えば簡単にできる。そうすると、社内のSlackに申請が来たという通知が送られる。ここはkintoneの機能を利用し、JavaScriptで送信機能を作ったそう。
その後、請求書払いにしていいかどうかの与信を行なうが、もちろんこれはソラコムでは無理。別の会社に依頼して請求書を発行するが、その会社にデータを登録する際は、kintoneから吐き出したCSVファイルをコピー&ペーストする半自動となっている。与信が終わり、kintoneにステータスを反映させるのは手動操作。ユーザーにメールを送信する部分は自動化するなど、自動化/半自動化/手動部分が混在している。
全部つなげて自動化すればいいのに、とも思うが、社内システムのセキュリティーなどいろいろと問題があるそう。無理に手間を掛けるより、壁の部分は手でやってしまった方が、早いしセキュアだという。
「こういった柔軟な使い方ができるのが、kintoneのいいところだと思います。われわれはkintoneを完全自動化するまでのサポーターと見ています。kintoneの中に情報を集めて業務を作っておけば、たとえば取り出すのが人であってもプログラムであっても、業務を変えずに少しずつ自動化していけます」(片山氏)
kintoneにデータを集約して業務を構築し、手動作業の部分を残しつつ、業務の処理量に応じて自動化を進めるという手法はとても理にかなっていると感じた。特にリソースが限られているスタートアップや新規事業開発部にとっては真似できそうな知見だ。
ビジネス優位性にならないところはプラットフォームにまかせるべき
「おかげさまで2015年にkintoneを導入し、翌年ヒットポイントが30に増えました。現在、お客さまは1万社以上で、サービスも増えて拡大しています。kintoneのおかげで大きくなれました」(片山氏)
ヒットポイントが30になったというのは、2016年に24億円の追加資金調達をしたという意味。創業1年ちょっとで合計31億円の調達はなかなかの規模だ。現在は、KDDIの連結子会社となっている。
ソラコムはIoTのプラットフォームで、kintoneは業務改善のビジネスアプリ作成プラットフォームと、ちょっと似ていると思っていたら、片山氏も「われわれはkintoneをリスペクトしています」と言う。
「ソラコムとkintoneは割と業態が近いと思っています。皆様のビジネスの中で、データを集めたりステータスを管理する、というのは優位性にならず、kintoneはそういった所を狙っていると思います。我々も同じで、モノがネットワークにつながるところは、今はビジネスの優位性にはなりません。その上で、どうビジネスをするのかというのが一番大事なところです。ビジネス優位性にならないところはプラットフォームに任せるのが重要だと考えています」(片山氏)
kintoneを使うことで空いた時間を自分たちの得意領域にフォーカスするように使っていると片山氏。
「われわれは『世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ』というビジョンのもと、会社としてなにをやるのか、どういったことをアウトプットしていくのか、自分の周りの人や世界をどういうふうに幸せにするのか、というのを真剣に考えるのは大切なことだと考えています。そのためにkintoneを活用していきますし、IoTをやるのであれば我々のプラットフォームをうまく使っていただきて、どんどん新しい取り組みしていただきたいと思っています」(片山氏)
順調にグローバル展開を進めて規模を拡大しているソラコム。kintoneを活用し、どんどん自動化が進められていくことだろう。近い将来、完全体になったkintoneをぜひ見てみたいものだ。
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