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サイボウズ、2023年度の決算・事業説明会でSaaS経営指標を初公表

売上高・認知度ともに順調なkintone 次のステップは「全社導入」

2024年02月29日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 サイボウズは、2024年2月27日、2023年度の決算・事業に関する説明会を開催。2023年度の主力4製品の進捗とあわせて、初めてSaaS経営指標を公表した。前年度に100億円の売上高を突破したkintoneは、順調に成長を重ねる。

 サイボウズは、2023年から2025年まで、「25BT(2025 and go Beyond with Trust)」という全社スローガンの基、中長期的な成長を見据えて開発と販売に注力している。

25BTのスローガン

 サイボウズの代表取締役社長である青野慶久氏は、「現状の最大の課題は、特定の部門で導入されているkintoneを、組織全体に横展開していくこと。kintoneを全社のDX基盤、情報共有基盤にしてもらう。この動きこそが2025年以降に向けた一番大きな動き」と説明する。

サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

2023年度の売上高・営業利益は過去最高を記録

 「サイボウズは企業理念に非常にこだわった会社」と青野氏。企業理念における存在意義(パーパス)に“チームワークあふれる社会を創る”を掲げる。

 この企業理念に基づき、情報がサイロ化してチームワークが分断された組織から、ひとつのプラットフォームでより多くの情報が共有できる組織への移行を支援する。そのために展開するのが、中小企業向けグループウェアの「サイボウズ Office」、中堅・大規模企業向けグループウェアの「Garoon」、業務システム構築プラットフォーム「kintone」、メールに特化した情報共有サービス「メールワイズ」の4製品だ。

 主力としているのがkintoneで、ノーコードでのアプリ作成を推進し、伴走パートナーやユーザーコミュニティがそれを支え、現場がリスキリングしてDXの内製化が進むという世界観で、チームワークあふれる社会の実現につなげている。

サイボウズの展開する4製品、主力のkintoneでチームワークあふれる社会の実現を推し進める

 サイボウズの2023年度(2023年1月~12月)の決算は、売上高は前年比15.2%の254億3200万円、営業利益は大幅減益となった2022年度から一転、前年比454.9%増の33億9400万円となり、共に過去最高の結果となった。2024年度の予想は、売上高は287億3000万円と30億程の増収、営業利益は30億9700万円の減益とみている。

 2023年度の業績の内訳をみると広告宣伝費が、2022年度の64億5200万円から43億1300万円に減少。「2021年度と2022年度は、短期の認知を取ろうと“BET!”というスローガンで、広告費を含めて積極投資をした。これを定常に戻したことで売上も利益も以前の傾向に戻ってきた」と青野氏。一方で、研究開発費は2億7000万円から8億8900万円に増え、2025年度以降の成長を見据えて、長期的な研究開発活動を活性化している。

連結売上高・営業利益の推移

 投資を弱めた広告宣伝に関しては、2023年度からは“製品認知拡大”から“製品理解促進”のフェーズへと移行した。2021年度、2022年度と積極的にテレビCMなどを打つことで、kintoneの認知度は2020年度から12ポイント上昇(サイボウズ独自調べ)。「サイボウズよりもkintoneの方が知られているところまできた」と青野氏。今後は、認知度向上のための広告宣伝への投資を、バランスをとりつつ継続していく。

広告宣伝投資の効果

成長著しいkintoneの課題は“全社導入”

 製品別にみると、主力製品であるkintoneの売上高は、前年比24.9%増の130億1200万円と成長は継続。契約ユーザー企業数は、3万2800社となり、1か月50社から60社のペースで増えているという。東証プライム企業においても3社に1社が導入、その汎用性の高さから幅広い業種で活用され、導入担当者の93%が非IT部門と継続して現場での支持を得られている。

kintoneのユーザー導入状況

 サイボウズ OfficeやGaroon、メールワイズの成長およびクラウド化も進み、クラウド売上高は、前年度比19.5%増の222億8300円に、クラウド比率も87.6%に到達した。「以前は、パッケージソフトの会社というイメージがあったが、ここまでくるとクラウドの会社といえるのではないか」と青野氏。

クラウド/パッケージからみた連結売上高推移

 今回初めて、SaaSの経営指標も公表された。ここまで、順調な成長が披露されたが、クラウド売上高が過去最高な一方で、1年分のMRR(月額経常利益)であるARR(年間経常利益)の成長率は低下傾向にある。

 製品別にみると、全社基盤としての導入が前提なGaroonの単価が高いものの、製品売上をけん引するkintoneの単価が低い状況が続く。青野氏は、「kintoneは、特定の部門や小規模で利用する企業がたくさんある。デジタル化を組織全体に拡げてもらうのが、われわれの一番の課題」と述べ、この課題を解決しないことにはチームワークあふれる社会を創れないとする。

 製品価格に関しては、現在外資系クラウドサービスの価格改定が続いているが、ユーザーへの提供価値を高めるような新プランを検討しているため、単純な値上げは予定していないとする。

SaaS経営指標(全体)

SaaS経営指標(製品別)

 kintoneの活用を組織全体に拡げていくために、サイボウズNEXTのコンセプトに基づいた製品強化も進める。kintoneを中核に、自社製品やパートナー製品との連携も視野いれ、扱える業務や情報の幅を拡張していくプロジェクトだ。

 サイボウズNEXTの取り組み第一弾として、kintoneでメールを受け取り、アプリと連携して全社的に共有できるようにする「メール共有オプション」を2024年にリリースする。

「メール共有オプション」を2024年リリースに向け開発中

 また、アプリ数の上限値を変更でき、全社導入に役立つプラグインを備えた、大人数全社導入企業のための専用のライセンスを、2024年夏を目途に提供する。

 その他にも、クラウド基盤の品質向上に取り組む。サイボウズのクラウドサービスは、同事業開始の2021年よりすべて自社開発、自社運用の“純和製のクラウドサービス”で提供してきた(国内向けのみ)。これを最新技術と共に刷新すべく、新たに自社開発する“NECO”というクラウド基盤へ移行を進めている。

 新クラウド基盤は、障害対策を強化した、より信頼性の高いインフラとなり、2025年から2026年には完全移行する予定だ。

2025年頃を目途に新クラウド基盤「NECO」へ移行中

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