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業務を変えるkintoneユーザー事例 第214回

少人数で完遂させた8000人が利用するシステム移行

3年間で2500ものNotesアプリをkintoneに移行した大陽日酸

2024年03月11日 10時30分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 ローコードツールで内製化を進め、人材不足の解消や人材育成に取り組んだ最新事例を紹介するセミナーイベント「kintone IT Special Seminar 2023」が、2023年8月30日、開催された。今回は大陽日酸によるセッション「8000人が使うシステム移行 少人数で完遂の秘訣」のレポートを紹介する。

大陽日酸によるセッション「8000人が使うシステム移行 少人数で完遂の秘訣」

 登壇したのは、大陽日酸 経営企画・ICTユニットICTマネジメント統括部 業務デザイン部デジタルコミュニケーション課/課長 丸山学氏と大陽日酸システムソリューション ソリューション本部/副本部長 須永史朗氏の二人。

 大陽日酸は1910年に創業した、国内の産業ガスビジネスを担う事業会社。従業員数は1528名、グループ会社含めると約8000名を抱える、日本酸素ホールディングスの100パーセント子会社である。この日本酸素ホールディングスは、アメリカやヨーロッパ、アジア、オセアニアなど、世界32カ国で、産業ガスビジネスを展開している。

 産業ガスには、酸素や窒素、アルゴンなどがあり、鉄鋼や科学、医療、食品など、あらゆる業界において欠かせない役割を果たしている。例えば、石油化学工場の生産ラインでは防爆用に窒素が使われており、酸素は病院の酸素ボンベなどに使われている。

産業ガスは様々な業界で利用されている

 大陽日酸のDX部門が掲げる重点戦略は、「デジタル技術を活用し、大陽日酸グループの企業風土、企業文化を変革する」だと丸山氏。業務効率化と生産性の向上、そしてデジタル技術の活用によるビジネスモデルの再構築を土台として、DXに取り組んでいるという。

 具体的なDXの取り組みとして、基幹生産工場のリモートオペレーションシステム構築の事例が紹介された。生産工場では常に高度な工場操業が求められているが、今後、生産年齢人口が減少すると予測されている。そこで、生産性の向上と人的資源を有効活用した工場の運営を目指し、リモートオペレーションシステムを構築した。

 従来はそれぞれの工場で生産管理を行っていたが、今後はIoTやAIを活用し、リモートオペレーションセンターがプラント運転や設備管理、品質管理を担っていくという。

大陽日酸のDX事例が紹介された

Notesからkintoneへの移行 ― 伴走パートナーに支援を受けつつ社内にノウハウ蓄積

 須永氏が所属する大陽日酸システムソリューションの設立は1973年で、従業員数は102名。大陽日酸の100パーセント子会社で、グループで利用するサービスを提供する会社となる。

 kintone導入のきっかけは、20年間使ってきたグループウェア「Notes」を刷新するプロジェクトが2016年に発足したことだった。Notesを長年使用する中で、2500ものアプリが乱立し、管理が行き届いていなかった。内製していたので、法令の変更にも自ら対応しなければならず、対応しきれない場面も出ていた。

 このNotesから脱却し、スマートデバイス対応など、時代にあったプラットフォームの構築を目指したプロジェクトがスタートする。移行に当たっては、4つの方針が立てられた。

 1つ目は、自社開発からサービス利用への転換。当時流行しはじめたクラウドサービスを利用することにした。2番目は限られた期間で多数のアプリケーションを移行するため、ローコード開発が必須であること。3番目はきめ細やかなアクセス制御、ワークフロー階層を構築すること。「当社はNotes時代からグループ内全体で情報基盤を利用していました。その中には複数の法人が同一環境を利用することもあり、きめ細やかなユーザー制御が必須だった」と須永氏は振り返る。

 4番目がスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスで利用できることとなる。

2016年、移行プロジェクト発足にあたり定められた4つの指針

 新しい情報基盤には、複数サービスを適材適所で組み合わせ、ライブラリーやワークフローなどの業務アプリを構築できることを理由にkintoneが採用された。

 Notesからの移行プロジェクトは約3年で完了し、2500個あったアプリは統合され、620個のアプリに整理された。現在では、グループ会社のうち53社、8000人がkintoneを業務で利用している。プロジェクト発足当時、kintoneチームはたった6人。それなのに3年という比較的短い期間で、この規模の移行を成功させた秘訣はどこにあるのだろうか。

「kintoneチームは6名で構成され、ほとんどのメンバーが他のチームとの兼任でした。そのため、実際にアプリを量産するためには、伴走パートナーの力が必須でした」(須永氏)

 同社がパートナーとして選んだのが、Notesからkintoneへの移行実績を有するコムチュアだった。伴走してもらうメリットは4つある、と須永氏。

 1つ目は最新技術動向の収集。毎月、コムチュアと情報交換会を開催しており、サイボウズからも担当者が参加して、新しいプラグインの情報や新機能の情報を定期的に入手できる。2番目は知見の活用とノウハウの蓄積。ユーザーから上がった要件に対して技術的な実現方法を提案してもらい、その情報を自社でも共有することで、ノウハウも溜まっていく。

 3番目は開発メンバーとしての柔軟な連携。従来の請負い型ではなく、開発パートナーという形で契約しており、発生した案件に対して重点的にリソースを割り当て、スムーズに対応してもらえる。4番目は環境設計に関する理解。大陽日酸の環境や設計に熟知してもらうことで、最適な提案内容を受け取れる。何か問題が起きても、影響範囲の特定が簡単だというメリットもある。

新情報基盤導入プロジェクトの中でkintoneチームは6人だけだった

アプリのテンプレート化で迅速な移行、kintone道場で市民開発を促進

 Notes時代は、目的が同じなのにアプリの設計が異なっていたり、コピーしたアプリの亜種が乱立したりするなど、保守性が著しく低下していた。そもそも、2500ものアプリをkintoneに一つ一つ移行するのも現実的ではない。そこで、アプリの目的と種類を分類し、それぞれに対応するテンプレートを作成。ある程度共通の設計にして、汎用性を重視するようにした。

 現在では、FAQやカレンダー、ISO文書管理、出欠確認、発信文書、稟議決裁など、約20種類のテンプレートを活用している。テンプレートを選び、各社が業務に合わせてアプリをカスタマイズするが、その際も、kintoneの基本機能でカスタマイズするようにしている。難しいカスタマイズはしないと決めており、細かい要望に対してはIT部門が解決方法を提案している。

Notesアプリを分類し、汎用的なテンプレートを作成し、アプリを展開した

 また、期間内に移行することを最優先事項とし、必要最小限の機能を移行する方針とした。そうでなくてもNotesは個別最適化されていたため、この方針に様々な反応が出てくるのは予想していたという。限られた時間でkintoneを社内に浸透させるために、プロジェクトではさまざまな施策を講じた。

 まずは、トップからのメッセージを打ち出した。今回の移行プロジェクトは、経営会議の承認を得たプロジェクトで、避けられないものであると強調。さらには、全国11か所ある拠点を回り、合計32回も説明会を実施。変更内容や機能の紹介、今回の方針などを説明した。

 加えて、社内広報誌を活用して、プロジェクト発足当時からの経過や直近の予定などを発信。社内公文書の通知だけではなく、キャラクターを使って親しみやすい発信を心掛けた。

社内広報誌では「ありがとうさよならノーツ」といった情報発信を

 Notesからの移行がプロジェクトのきっかけだったため、kintoneのアプリ展開はIT部門が主体になって進められた。しかし、IT部門の限られた人数だと、現場のニーズに対応しきれないことがある。そこで、現場担当者が自身の手で解決する市民開発を推進している。

 具体的には、ユーザーのkintone教育施策である「kintone道場」をスタートした。IT部門が講師となり、現場担当者にアプリの作成方法や運用ルールなど教育し、受講内容を踏まえて、担当者が自らアプリを作成する。野良アプリ対策としては、「アプリ台帳」アプリで、誰がどのテンプレートで作ったのかを管理している。なお、受講する担当者のことは道場生と呼んでいるそうだ。

 そのおかげで、すでに「工場概算見積」アプリや「発注処理依頼」アプリ、「チャレンジシート」アプリなど、道場生発のアプリも運用されている。

「kintone道場はまだまだこれからですが、それぞれの現場や部署が、自ら課題について考え、必要な機能を作成し、運用しています。こういった取り組みを社内に広げて、市民開発を拡大し、少人数のチームでも大規模な組織の業務改善につなげていきたいと考えています」と須永氏は語った。

社内浸透を進めるために「kintone道場」を開催

 Notesの2500個のアプリを3年間でkintoneに移行し、社内浸透にも成功。現場の市民開発も推進するなど、濃厚な内容のセッションだった。Notesを使用する会社もまだ多い中、今回の事例は参考になるだろう。

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