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SACDとハイレゾ版の音質の違いをマスタリング・エンジニアに直撃

麻倉怜士が「ハイレゾ版 松田聖子」の音の魅力に迫る

2015年02月27日 09時00分更新

文● 荒井敏郎 編集部●ASCII.jp

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SACDとハイレゾではマスタリングのアプローチが異なる

麻倉: SACDの場合はフラット・トランスファーと言われる、元の音のまま何も加工しないというのがウリですが、今回のは少し音を作ったという感じですか?

鈴木: そうですね。今のマスタリング手法を使いながら、元の音を活かす──ということです。

麻倉: 全然アプローチが違うんですね。

鈴木: 今の機材で音を作ると、少し明瞭度が上がったり音圧感が増えたりします。2009年に松田聖子さんのリマスタリング版CDを出したのですが、その方向性に近いかもしれません。

麻倉: そのときにもマスタリングしたんですね。

鈴木: その流れを汲んで、今回も今の機材を使って昔のものをよみがえらせたというイメージです。

麻倉: そうすると今回のハイレゾ版とリマスタリング版は似ていると。

ソニー・ミュージックスタジオのチーフエンジニアで、レコーディングとマスタリングの両エンジニアの鈴木浩氏

鈴木: そうですね。ただ音を作るというよりは、元の音源に込められた意図を読みながら、曲が作られたその当時の音楽を理解しながら、それをよりはっきり出せるようにするというイメージです。自分なりにとか、今風という勝手な解釈ではなくて、元の音源の方向性をより引き出すことを重視しています。

麻倉: それは、つまり音源を自分で聴いてみて、そこから感じとって──ということですか?

鈴木: そうですね。この楽曲の魅力はどこだろうか? とか、リズムはどこだろうか? といった部分です。

麻倉: 具体例で曲名は挙りますか?

鈴木: 「風立ちぬ」は大瀧詠一さんのアレンジなんですけど、リバーブが多い空気感があるサウンドなので、リズムを活かしながら残響感をより引き出してボーカルが映えるようにしています。高域の伸びや倍音に少し手を加えています。

麻倉: 基本的にはイコライザーで持ち味を出していくわけですね。SACDの「風立ちぬ」も素晴らしいですけど、比べてみると細かい音の立ち方とか切れ味がずいぶん違いますよね。ハイレゾ版は松田聖子の世界観がよりわかりやすく、彼女のパーソナリティーが入っていてキラキラ感があって輝いています。

 マスタリングの中で、松田聖子さんの歌声の特徴だけではなくて、成長みたいなものも考慮してマスタリングすることはありますか?

鈴木: それを活かすというか、例えば「大人な感じ」とか「背伸びした感じ」というイメージは含めていますね。歌っている特徴を引き出している感じです。

麻倉: 基本的には周波数バランスを整えてあげるということですか?

鈴木: この歌はボーカルを出したほうがいいかなとか、リズムに含めたほうがいいかなという感じですね。

麻倉: SACDの場合でも、録音時の音をそのまま表現できていたので細かいニュアンスなどをこれまでよりも大きく感じることができたのですが、そこに「松田聖子」というボーカリストの特徴を曲の世界観に合わせて強めているわけですね。ボーカリストの素晴らしさが、より伝わっている理由がわかりました。彼女は曲やフレーズによって歌い方を微妙に変えているのですが、ハイレゾ版はそうした表現がグッと前に出て来て、とてもわかりやすくなっています。それが世界観を広げることにもつながっているのでしょうね。


(次ページ「ハイレゾ版の松田聖子を聴く際のポイント」へ続く)




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