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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負第4回

麻倉特薦:ついにFLACでリリースされたQUEENの名盤

2016年08月28日 11時00分更新

文● 麻倉怜士(Twitter:@ReijiAsakura) 編集●HK(ASCII)

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 評論家の麻倉怜士先生が、現在配信中の最新音源から、注目かつ高評価な楽曲をピックアップし、じっくり聞いて評価する本連載。

 8月は英ロックバンドQueenの名盤や、2015年に活動を再開したジャズピアニストの大西順子氏のソロアルバムをピックアップ。ロックからクラシックまで、秋の夜長にじっくりと聴きこんで楽しめる名盤を紹介しています。ぜひe-onkyoをチェックして、お気に入りの作品に出会ってみてください!

A Night At The Opera
Queen

特薦

 ハイレゾをここまで普及させた金字塔的なコンテンツの再発だ。ハイレゾ配信は日本では、05年にe-onkyoとオーディオ・メーカーのクリプトンが始めた。しかし当時、メジャーなレコード会社は配信などに貴重な音源を提供できるわけがないと、けんもほろろ。「配信=貴重な音源が不法に流出」というイメージが強く、CDがまだ隆盛な時代でもあり、メジャーにとっては、高音質配信など思いもよらなかったのである。それが今では、大手が配信会社に日参に来るほどの繁盛ぶり。

 成長のきっかけが2011年に、ユニバーサル・ミュージックがわが国の大手レコード会社として初めて、e-onkyo musicを通じて実験的にハイレゾ配信を敢行したことだ。クイーンがEMIからユニバーサルに移籍したのを記念して、96kHz/24bitで配信したのである。ハイレゾはクイーンの楽曲から断然の魅力を引き出した。アナログ時代からの傑作定番をぜひハイレゾで聴いてみたいという欲求を、ひろくユーザーの間に沸かせた。

 この時、クイーン楽曲はWMA形式でエンコードされ、DRM(著作権保護)が付いていた。その後、DRMフリーが一般化し、ハイレゾは本格的に普及を始めた。DRM付では、ダウンロードしたパソコンでしか聴けなかったが、DRM無しなら他のパソコンや携帯プレーヤーなどにコピーして、楽しめる。今回のフレディ・マーキュリー生誕70年を記念した配信は音源的には、2011年にリリースされたものと同じものだが、flac 96kHz/24bitでエンコードされ、当然、DRM無しだ。

 A Night At The Operaは1975年12月に発売されたクイーンの代表アルバムだが、あの「ボヘミアン・ラプソディ」は、12曲中の11曲目というブービーの位置にあるのも、曲の偉大さからすると意外なような……。

 「ボヘミアン・ラプソディ」は、音像移動の芸術と言っても過言ではない。それも左右だけでなく前後も、そして大規模、小規模---のダイナミックな移動が、本曲をステレオ音場で聴く楽しみだ(マルチチャンネルはさらに凄い。それはDVDオーディオで堪能できる)。

 冒頭のIS THIS A REAL LIFE?の時のコーラスはスピーカー位置で歌唱するが、IS THIS JUST A FANTAGYではボリュームがわずかに下がり、音像もわずかに奥に行く。細かな移動(ある声部だけ、左右に移動したりする)を繰り返し、SCAPE FROM REALITYの部分で、完全に前面に復帰し、ボリュームが上がり、声の剛性感がリジッドになる。ここまで冒頭のわずか13秒。

 同じ移動でもパンポットだけでなく位相シフトを加え、「移動しながら浮遊する」音作りが随所にされていることが、ハイレゾだからよりクリヤーに分かる。32秒からのEASY COME EASY GOは左から聞こえ、 そこから右方向へ移動、LITTLE HIGHでは中央に、そしてLITTLE LOWは右から来る。音像のサイズも移動と共に大きくなる。 55秒からのMAMA I LUST KILLED A MAN のベースの盤石感と安定感と、そして輪郭の確かさは、さすがはハイレゾだ。このあたりから、ドラムスもくっきりとした存在感を示すが、ドラムスを構成する打楽器たちが混濁せずに、塊にもならずに、個々の要素を隈取りする。

 アナログからマスタリングが2011年とやや古めなので、細部や輪郭はもっと立って欲しいと思うが、音の構成要素の多い、この名作の独特な世界観が痛烈に感じられる。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

Tea Times
大西順子

特薦

 突然の引退を宣言してから3年、昨年の東京JAZZで復活した大西順子の6年ぶりのソロアルバムだ。先日、NHKFMを聴いていたら、20年以上前のインタビューが放送されていた。ニューヨーク留学時代、ジャズクラブの新人ライブに出ようと1ヵ月、通い詰めた。

 もうお金も無くなって帰国しようかと思っていたある日、バンドの専属ピアニストが喧嘩してどこかに行ったとかで、マネージャーから声を掛けられ、出る機会を持てた。演奏したら絶賛され、そのバンドのレギュラーになれた。その場にたまたま巨匠ソニー・ロリンズが居合わせ、多くのジャズプレイヤーに紹介してくれた……という話だ。才能だけでもだめ、一生懸命通いつめただけでもだめ、才能+努力+運の三つが揃って、初めて認められるというデビュー話は、たいへんドラマティックであった。

 ひじょうに剛毅で、力感溢れるパフォーマンス。冒頭の叩きつけるような和音が意志の勁さ、前向きな挑戦心を表す。切れ味は実にシャープ。鋼のようなリジッドさだ。主部の速く、力強いパッセージからも、鮮明なメッセージが伝わる。最新録音らしく鮮明で明瞭。ベース、ドラムス、そしてピアノがハキハキとした物言いで、左右のスピーカーの間に濃密な音場をつくり、そこにはわずかの隙間も無い。ベースとピアノの低音部のスケール感、中域の張り出し感が、バンドとしての意志の強靭さを表現している。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Artists Inc.、e-onkyo music

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第30番、第31番、第32番
田部京子

特薦

 田部京子が、デンオンからトリトンレーベルに移籍した第1弾作品。トリトンレーベルはオクタヴィアレコードのピアノ専門部門。渡邉規久雄、金子三勇士、清水和音、小林有沙、宮本ミサ……など日本のピアノの俊英たちの演奏が高音質で聴ける。田部京子にとって初のベートーヴェン・後期ラストソナタだ。これまでもコンサートでは数多く手掛け、パッケージリリースが待望されていた。この3曲は円熟の極みのベテランだけ録音を許される楽曲だが、田部は見事に弾ききった。

 ハイレゾの音質はひじょうに質感が良い。ピアノの音が正直に、何の誇張も人為感もなく、自然体で正しく収録されている。繊細で丁寧な鍵盤感から強靭でアグレッシブな打鍵まで、表現のダイナミックレンジが広大で、スケールが大きい。響きがたいへんだ。量自体はかなり多いのだが、それが濁らず、混濁せず、清涼きれいなソノリティを聴かせている。響きの質がひじょうに高いので、田部のピアニズムをダイレクトに体感できる。日本制作のピアノハイレゾの傑作だ。2015年8月12〜14日、東京・稲城iプラザにて収録。

WAV:96kHz/24bit
FLAC:96kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit
TRITON、e-onkyo music

春の声
森 麻季

特薦

 「華麗さ」「愛らしさ」「輝き」「透明」という言葉がイメージされる森麻季の新作。珠玉の美声がハイレゾで聴ける。グノー:私は夢に生きたい〜歌劇《ロメオとジュリエット》から、マーラー:天上の生活(交響曲第4番第4楽章)まで8曲構成だが、うち5曲はワンポイントマイク収録バージョンもある。つまりこの5曲では、マルチマイクとワンポイントマイクの音が比較できる。本作品は、もともと全8曲のSACDハイブリッドディスクとして構想され、マスタリングの過程で、補助マイクを使わないワンポイント録音の音がとても魅力的だったので、ボーナストラックとして収録したという。

 まずマルチチャンネルマイクでの「春の声」。華麗で、暖かな空気が音場を満たす。森麻季はシャープにして、温度感の高いソプラノ。オーケストラは単なる伴奏ではなく、バランスよく「協演」している。1階中央の客席にて聴く距離感とソノリティだ。一方、ワンポイントは、オーケストラの体積感が増し、ソプラノがより繊細に、音像はほっそりとするが、響きのリッチネスは増す。オーケストラとソプラノのトータルでのマッシブ感が感じられる。細部を徹底的に攻めるというより、会場の響きを愉しむバージョンだ。オーケストラは東京都交響楽団と日本フィルハーモニー交響楽団。2015年8月、2012年11月に杉並公会堂、東京芸術劇場、横浜みなとみらいホールで録音。

WAV:96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit
FLAC:96kHz/24bit
FLAC:192kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit
avex-CLASSICS、e-onkyo music

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ (全曲)
ギドン・クレーメル

推薦

 1980年に録音された、クレーメル43歳の時の名盤だ。クレーメルには2000年代初頭の再録音があるが、初録音は剛毅感、スリリングさ、ハイテンションさで魂に響く演奏とされる。ヴァイオリンはセンターに正しく定位する。響きの彼方にヴァイオリンがいるという、大コンサートホール的な音場感ではなく、ヴァイオリンの直接音を主体にし、サポートする響きが加わるという構成だ。

 無伴奏なので、クレーメルの剛毅で精神性の深いバッハ解釈が明確に分かる。ソロヴァイオリンにして、ポリフォニーの構造を取るバッハのスコアの一音一音が、さらに各声部の対比感が、これほど明瞭に聴けるのは、まさにハイレゾの恩恵だろう。音自体の剛性感、テンション感も素晴らしい。1980年2月、3月、6月、オランダのハーレム・ルター教会で録音。

FLAC:192kHz/24bit
Decca Music Group Limited、e-onkyo music

トランペット・テールズ
イエルーン・ベルワルツ

推薦

 イエルーン・ベルワルツは元ハンブルク北ドイツ放送交響楽団首席トランペット奏者。 1曲目、36の超絶技巧練習曲。きれいで、クリヤーな音場のセンターにソロのトランペットが位置する。直接音が明瞭にして、音場に拡散する響きが豊かだ。響きの滞空時間が長く、音場にきれいに収束する。センターのトランペットを中心に横に長い楕円形的な響きの塊が明確に見えるのがハイレゾならでは。

 3曲目。マイファニー・バレンタイン。距離が深い。彼方から幻想的なトランペットサウンドが聞こえくる。ビアノとのデュオだが、ピアノはさらに奥に、センターから左半分をピアノの音場に充てている。霧の中のマイナーファニー・バレンタインも素敵だ。86【録音】2015年11月5〜7日 東大和市民会館「ハミングホール」 

WAV:192kHz/24bit
FLAC:192kHz/24bit
日本アコースティックレコーズ、e-onkyo music

ギルティ・プレジャー
山中千尋

推薦

 山中千尋のCDデビュー15周年記念アルバムは、11曲中8曲をオリジナル作品で固めたオリジナル曲を中心としている。1曲目、クルー。ピアノはセンターから左チャンネル寄りに定位。ドラムスはセンターに奥まって定位している。ベースは左チャンネル。直接音は左が強く、右チャンネルは間接音が主体。別に述べた大西のピアノのような全身全霊を叩きつけるというハイテンションさとは異なり、スマートで耳に優しいピアニズムだ。

 音の輪郭も強調感が少なく、スムーズ。2曲目、ギルティ・プレジャー。悠々なオルガンに細かな刻みのドラムスが絡む。ハモンドの即興のノリと、ドラムスの細かな音価のミックスが面白い。Yoshi Wakのベース、John Davisのドラムス。山中のレギュラー・トリオによるNY録音。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Classics & Jazz、e-onkyo music

Simple Life
Katrine Madsen

推薦

 北欧ジャズレーベル「Stunt Records」(コペンハーゲン)のハイレゾ配信スタートアルバムだ。「コンブレッションを掛けない」をマスタリングのモットーにしている。

 1曲目、Simple Life。ストリングスとピアノの静謐なサウンドで始まり、アルトなKatrine Madsenのヴォーカルがセンターでしっとりと歌唱を始める。スネアブラシとピアノのつま弾き、ストリングスのハーモニーをバックに、ある時はセクシーに、粘っこく、オイリーに歌い上げる。大向こうを狙うような人工的な化粧感を排した、あるがままの素直な音調が耳に、体に優しい。7曲目。ジャズスタンダードのI've Grown Accustomed to His Face。ベースの単音を伴奏に、ヴォーカルがしっとりと語りかける。シンプルにして、高い透明度が感じられる叙唱だ。内省的で、沈殿するようなサウンドは北欧的というべきか。

WAV:88.2kHz/24bit
FLAC:88.2kHz/24bit
Stunt Records、e-onkyo music

The Bride
Bat For Lashes

推薦

 イギリスの女性シンガー・ソングライターNatasha Khanによるプロジェクト、バット・フォー・ラッシーズ(Bat For Lashes)のニュー・アルバムだ。個人とプロジェクトの関係は、西川貴教とT.M.Revolution、坂井泉水とZARDの関係に似る。

1曲目、I Do。インディアンハープをバックに朗唱するのびやかで、艶っぽい女声が魅力的だ。繊細で、明確なメッセージ性を持つ。ハープの一音一音が明瞭だ。2曲目、Joe's Dream。響きは多く、音場にはかなりのエコー成分で満ちるが、ヴォーカルのニュアンス感と感情感は明瞭に伝わってくる。響きが多くても音自体はクリヤーだ。間接音までワイドなレンジ感を持つ。ポップな快適性も。

FLAC:96kHz/24bit
Parlophone、e-onkyo music

ハイレゾ・歌カラコレクション「夢芝居/演歌みたいな別れでも/恋曼陀羅」
梅沢富美男

推薦

 「単なるアーカイブや焼き増しなどとは違い、新たな音楽の構築と言っても過言ではない。最初の1音、あの拍子木の音を聴いただけで、楽曲の印象が大きく変わります!」とマスタリングエンジニア矢内康公氏がe-onkyo musicサイトで述べているが、実際、確かに「夢芝居」冒頭の拍子木は衝撃的だ。

ストリングスが厚く、堂々たる艶っぽいハーモニーを聴かせる。音的な深さと、音場の深さが印象的だ。透明感や質感の高さに加え、空気感もリッチで、音場の位置関係やダイナミックレンジの広さなど、オーディオ的な意味でのクオリティーの高さも感じた。センターのヴォーカルは威風堂々。もの凄く艶々している。器量感のある音の色気だ。ストリングスのオブリガードもセクシー。オリジナルのアナログマスターの質感がそのままトランスファーされたことに加え、やはりDSD5.6MHzならではの精細さと、感情表現力の成せる技だ。チェンバロの質感が耳をくすぐる。2016年6月、キング関口台スタジオ第4マスタリングルームにてマスタリング。 

WAV:96kHz/24bit
FLAC:96kHz/24bit
DSF:5.6MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music

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