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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第71回

週刊アスキー福岡総編集長が語る

初音ミクは日本の伝統芸能だった

2011年09月17日 12時00分更新

文● 四本淑三

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wowaka君は近松の生まれ変わりだったのか!?

―― ボカロ界隈でマネタイズどうするみたいな話もありますけど、昔はどうやって経済回していたんですか?

福岡 みんなバイトして作ってたかもしれないですね。食えねえよって言ってたのかもしれないし。でもね、家元制度じゃないので誰でも入門オーケーなんですよ。その中でいいものだけが残って、その価値を高めることでエコノミクスは成り立っていたと思いますよ。竹本座も『曽根崎心中』の前まで相当借金を背負っていたみたいなんですけど、1ヵ月通しで満員になったおかげで、チャラになったという記録が残っているんですよ。

―― それはすごい。一発逆転の大ヒットだったわけですね。

福岡 そういえば全然関係ないですけど、普通、浄瑠璃って11段とかあるんですよ。朝から晩まで語るんですよ。朝から行って、ごはん食べて夜まで観るというのが当時の芸能ですからね。

―― フェスですねえ。楽しそうだなあ。

福岡 もう毎日がフェスですから。昼間の段なんかは、みんな弁当食べているから、弁当幕と言って、どうでもいい役者がどうでもいい演目をやるわけ。休めばいいじゃないですか。でもやるんですよ。その中で客の注目を引いたヤツがいい演者みたいなことになったりして。そうやって育っていくんですね。

―― システムとしても良くできてるんですねぇ。

福岡 それでね、写真家の杉本博司さんがやっている「杉本文楽」というのを観てきたんです。いま曽根崎心中は「生玉(社前)の段」から後しか語られないんです。「天満屋の段」「天神森の段」と3つしか語られない。でも、その前に実は「観音廻りの段」というのがあったんですよ。

「杉本文楽 曾根崎心中」。8/14〜16に神奈川KAATで上演された

―― 幻の段があったわけですね。

福岡 曽根崎は3段しかない短い演目なので、その前に我が国の大君、天皇をテーマにした演目(日本王代記)をやっていたんです。でも、さすがにその後に心中物って具合が悪いわけですよ。それで近松はどうしたかというと、お初が田舎客と上方33箇所の観音巡りをやる話を入れた。それが生玉の段なんですけど、今は演目としてやっていない。それを杉本文楽でやったんですね。僕も初めて聞いたんですけど、これがすごいんですよ。途中から語り口が速くなるんですよ。もうほとんど「裏表ラバーズ」みたいなもんですよ。



―― 何ですかそれは!?

福岡 「えっ! ボカロ!? ボカロ曲なのこれ?」みたいな。途中から展開を速くしなくちゃいけないというので、もう語りが早口言葉みたいになって行くんですよ。wowaka君というのは近松の生まれ変わりじゃないかという。

―― それは録音とか映像はないんですか?

福岡 どこかで録画していると思うので、DVD出るかもしれませんけど。面白かったですよ。衝撃でしたね。ええっ! っていう。これ、暴走? 暴走かよって、思わずつぶやいちゃいましたから。

暴走 : もちろんBPM200オーバーが当たり前の暴走P(cosMo)のこと。

―― でも、そうやって喜んでたの、お客さんの中では福岡さんだけじゃないですか?

福岡 ええ、僕だけです。まいったな曽根崎、暴走だよって。最後は皆で三本締めですからね。いいなあと思ってこれは。

―― そんなライブないですもんね。ボカロをきっかけに日本の伝統芸能に親しんでみるのもいいかもしれないですね。

福岡 ええ、もうそれは。



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。

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