能舞台はインタラクションのためにデザインされていた
―― 福岡さんはそれ以前から日本の古典芸能に興味をお持ちだったんですね?
福岡 うん、研究テーマでもあるので。歌舞伎は前から観てましたけど、文楽はここ5年ばかり回ってまして。人形浄瑠璃って本当に面白い芸能なので、これを皆に勧めて流行らせようとしている、非常に迷惑な存在なんですけど。今は大人気で国立劇場でもチケット取れないくらい流行ってますよね。
―― その福岡さんに、今日は人形浄瑠璃の話をお伺いしようと思っているんですけど。
福岡 じゃあ、日本の古典芸能の話から始めたほうがいいのかな?
―― ぜひお願いします。
福岡 まず能舞台ってありますよね。あれは張り出し舞台って言うんですけど、西洋の舞台だと、額縁の中に入った絵画を眺めるように観るわけですけど。ところが能の舞台は、客席の方に張り出しているんです。
―― ステージが低くて客席に近い構造ですよね。
福岡 それは演技を見せるためというより、客とのインタラクションを取るためなんです。主役には「シテ方」「ワキ方」の2つがありますが、ワキ方はお客さんに背中を見せて、客からの何かを受け取って、シテに伝えるんですよ。つまりシテと観客とのインターフェイスがワキなんです。だから客によって毎回違う舞台になるんです。客とのインタラクションで舞台空間を作っていくというのが、観阿弥、世阿弥親子の考えた能なんですけど。
―― へええ。あの舞台の形にはそういう意図があったんですか。
福岡 たとえば歌舞伎だと花道でインタラクションが取れますよね。あそこで大向うさんが声をかけたりとかね。今は伝統芸能だからって、みんな大人しく観ていますけど、客はうるさいんですよ。下手な奴が出てくると「引っ込めー!」とか言うし。演者もそれは分かっていて「待ってました!」って声がかかるとノって語ったり、演じたりしていたんです。それって、ニコニコ動画みたいな感じでしょ?
―― ああ、正に。
福岡 あれは張り出し舞台だからですよ。この前、ニワンゴの杉本社長にその話をしたら「いやいや、まさにその通りなんですよ」って喜んでくれたんですけど。鑑賞するというより、お互いの掛け合いの中で生まれてくる。それが日本の芸能の王道なんです。
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