天下り先を守って通信産業を滅ぼす電波官僚
いったん閣議決定までした周波数オークションがなぜつぶされたのかについて、関係者に聞くと「時間がない」という答が返ってきた。今年7月にアナログ放送の電波が止まって周波数が大幅に空くが、700MHz帯が使えるようになるのは2012年7月以降だ。それまでに業者を選定して、電波が空いたらすぐ営業が始められるようにするには、今の通常国会に法案を出さなければならない。オークションを導入するのは大改正になるので、1年以上の審議が必要だから、とりあえず来年に間に合わせるためにオークションは見送った――というのだ。
しかし来年、割り当てが行われるのは900MHz帯の5MHz×2だけで、100MHz近くが空く700MHzは2015年までに割り当てればよい。来年の通常国会で改正して、700/900MHz帯をまとめてオークションにかければよい。いま中途半端な改正をすると、700MHz帯も今までどおり総務省の「美人投票」で決まってしまう。
このように電波官僚がオークションを嫌う背景には、電波部の技官と天下り先の通信業者の深い関係がある。電波業界は少数の技術者しか実態のわからない特殊な世界で、総務省から各通信業者に多くのOBが天下り、官民一致して従来の業者の既得権を守ってきた。今回のオークションをめぐるヒアリングでも、こうした通信業者は一致してオークションに反対した。
さらにこの問題には、電波利用料という利権が絡んでいる。これは最初は無線局ごとに行なう事務費という理由で携帯電話から1台600円ずつ徴収していたが、携帯が包括免許になって通信業者が一括して免許申請をするようになって1台ごとの事務費は要らなくなったのに、いまだに1台250円ずつ徴収している。
昨年度の電波利用料収入は642億円で、使い道がないので「研究開発」と称して天下り先の特殊法人などに配っている。しかもこれは一般会計だが、総務省が独占的に使える「隠れ特別会計」になっている。オークションによって得られる収入は、どこの国でも一般会計に入れているので、電波利用料を止めてオークションにすると、この「総務省の貯金箱」を財務省に取られてしまうのだ。これが電波官僚がオークションに反対する最大の理由である。
こんなことをやっていると、いつまでも日本の通信産業には新規参入が現われず、競争も生まれない。競争のないところにイノベーションは生まれない。短期的には「ガラパゴス」で既存業者が仲よくやっていけるかもしれないが、アジアが大きな新市場として立ち上がっているときに、人口の減少する日本だけでは先細りだ。日本の携帯端末メーカーは合計しても世界市場の5%もなく、サービス業者に至っては海外の実績は無に等しい。電波官僚は、自分たちの天下り先を守るために通信産業を滅ぼし、日本経済を滅ぼそうとしているのだ。
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