すべての中国人が怒りに震えているわけではない
アニメファンや日本語学習者など日本絡みの掲示板や、チャットソフトQQ(関連記事3)のチャットグループなどでは、国と国が絡む面倒な話題を頑なにスルーしているやりとりを見ることもできる。日本のアダルトビデオの人気を背景に、この話題をAV女優の話で茶を濁すなんてことも茶飯事(関連記事4、関連記事5)。
CNNICの同調査結果によれば2010年6月末の段階で3億6381万人のブロードバンド利用者がいて、うち2億6544万人、つまり4人に3人が動画共有サイトを利用し、さらにその35%にあたる9290万人がアニメを視聴している。ブロードバンド利用者の4人に1人がアニメを見ているわけだ。
左手で抗日の握り拳をつくり、右手で日本のコンテンツを見るべくマウスを動かす人もいるが、一方で筋の通った純粋な日本好きも2005年の反日デモのときに比べてぐっと増えていると感じる。
アニメやゲームなどで日本語をかじった一部の若者は、現地の「日本語コーナー」「日本語サロン」と呼ばれる日本語学習者の集いや日本語学校で武器を磨き、就職で有利になるべく日本語能力検定試験を受ける。
この試験、最難関の1級から4級まであり、約二十万人が中国で受験(日本で学ぶ留学生は含まれない)、最難関の1級でさえ7万人超が受験している。中国人受験者は最多で、韓国の受験生ですら中国の3分の1程度である。日本を恨むために日本語が学べようか。
2005年の反日デモにネットの影響を受けて参加した抗日・反日の若者は5歳年をとった。受験戦争が激しいゆえに、大学受験終了までPCで遊ぶのは御法度な中国だから、反日教育の影響を受けたと言われる若者は、今20代中盤、下手すれば30代に突入している。5年前のネット利用者は約1億人。今となってはその1億人はネットでは少数派のヘビーユーザーだ。
「1万人の観光客一団が訪日中止」という中国の報復が「経済に影響あり」と日本で話題となっている一方、中国でもここ数日「日本の粉ミルクが買えなくなると困る。愛国者は毒粉ミルクでも子に飲ますつもりか」というブログも散見した。
中国国内では、日本の粉ミルクの空き缶にニセモノの粉ミルクを詰めて販売するニュースが最近伝わったばかり。日本からホンモノの商品を取り入れない限り安全確実とはいえない状況で、日中関係が冷たくなるのは非常に困るようだ。
まさに2005年の反日デモの主役たちが結婚・出産適齢期を迎えている。2005年の反日デモの写真には女性も多数混じっているのに、今回の反日デモで若い女性が滅多にいないのはその影響もあるのではないか。
普段デモが起こりえないのにデモが発生するとか、日本政府や日本企業や日本人にありもしない理由で怒りをぶつけられたりしたら理不尽と不快感を感じるのは日本人として至極当然。中国に多数の日本人が在住する中、在中国日本大使館は在住日本人向けに注意喚起を行なっている一方、ここ数日中国で日本人の怪我人が発生したという報告はされていない(施設のガラスが割られるという怪我に繋がる事件は残念ながら発生しているが)。
すべての中国人が愛国心ゆえに怒りに震えるわけではない。筆者の推測ではネットで愛国を訴える人は、ネット利用者の3、4%程度であろう(関連記事6)。今回のネットメディアに煽られた人々は少数派であることを知っておくべきだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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