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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第79回

オタクの脳内、見せまくり! 一流ホームページの超妄想術

2010年09月14日 12時00分更新

文● 古田雄介

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デンキヒツジ氏が一番のお気に入りと語る、阪神高速道路4号湾岸線の「助松ジャンクション」。休日を使ってこれまでに10数回撮影しているという

 工場やダム、団地などの建造物ブームが起こる前から、ニッチな嗜好を表現した写真サイトは少なくない。「立体交差中心」もそのひとつだ。高速道路や一般道のジャンクションやインターチェンジなどの立体交差道路にスポットをあてて、2002年から自身の写真を掲載しつづけている。

 管理人のデンキヒツジ氏は当然ながらジャンクション好きではあるが、この属性はひとくくりにできない。「ジャンクション好き」の中にも、絡まり具合のマニアや高架脚マニア、走行中の横Gマニア、レア構造マニアなど、嗜好によって多種多様なマニアがおり、それぞれで同じ対象物に向ける目も異なる。

 デンキヒツジ氏はその中で、「夜の立体交差に向かう高架道路のきれいなカーブ」マニアと言える。顔の見えるインターネット 第80回は、そんな同氏のこだわりと、好きなものを追求する楽しさについて伺った。

立体交差中心

 2002年9月にスタートした写真サイト。当初は工場や昆虫、花などの写真も数多く掲載していたが、建造物ブームで盛り上がった2008年に立体交差の写真のみを載せる方針に転換した。累計で19万アクセス以上となる老舗サイトだ。

ジャンクションに向かう高架の曲線に惚れた

―― サイト運営とジャンクション撮影はどちらが先だったんですか?

デンキヒツジ(以下、デンキ) ジャンクション撮影ですね。もともと夜の工場風景が好きで、ある夜に友人と2人で大阪の湾岸線近くで工業地帯の写真を撮っていたんですよ。そのとき、たまたま「助松ジャンクション」を見つけて感動したのが始まりです。当時持っていたコンパクトデジカメで試しに撮ってみたら、すごく面白くて。

 普段クルマでジャンクションを通っているのに、歩いて見上げると全然違う姿が見えてくるわけです。迫力がすごいんですよ。それでいて合理的といいますか。見上げた先で道路が何本も重なっていて、「この道はどへどうつながっているのか」というが一見分からないんですが、でも、確かに機能していると。安全に走行できるように考えながら、ムダを省いて道と道を接続しているというところに面白さみたいなものを感じました。それから、色々なジャンクションを探すようになって今に続いています。

デンキヒツジ氏。普段は自動車販売会社の営業マンとして活躍している。生活圏は大阪のため、休日を使って関西や中部地方を回っているという

―― 巨大な機能美、という感じでしょうか。何本も入り乱れた複雑な感じにワクワクするような。

デンキ 機能美に惹かれましたね。ただ、僕は複雑に絡まっている感じよりも、ジャンクションに至る高架のきれいなカーブが好きです。ジャンクションは運転者が危なくないように色々な道をつないでいると思いますが、そうした複雑な役割があるのに、すごくきれいなカーブを描いて交差していたりするんですよ。だから、写真を撮るときも立体交差だけではなく、周辺の高架がカーブを描きながらシュウッとジャンクションに集まる様が見られるような構図にしています。

―― なるほど。確かにサイトの写真も、高架から立体交差に至る流れが一望できるものが多いですね。

デンキ たまに「もっと立体交差寄りの写真も載せて」という声もいただくんですが、自分で納得できる写真を選ぶと自然とそうなってしまうんです。ジャンクションが好きという人の中でも心が惹かれるポイントというのはバラバラで、おっしゃったように複雑な重なりが好きという人もいれば、高架脚のドーンとした存在感に惚れるという人もいます。なので、ジャンクション鑑賞ツアーに参加したときでも「この絡み具合が最高ですね!」「いや、僕はその前のカーブが……」みたいに感想を言い合ったときに、なんとなくズレというか違いを感じたりしますから(笑)。

―― ちなみに、ジャンクションに感じている魅力は、写真の被写体として、それとも実物としてでしょうか?

デンキ 実物ですね。そもそもカメラを本格的に趣味にしたのも、ジャンクションに出会ってからなんですよ。最初にコンパクトデジカメで撮ったときは1枚に収まる範囲が狭くて、魅力を捉えきれないと思ったんです。それで、もっと大きなカメラ、一眼レフと買い換えていって、ニコン「D100」と広角レンズの組み合わせに行き着きました。

 そうやって写真を撮っているうちに、せっかくこれだけ写真があるんだし、ちょっとホームページでもやってみるか、という感じでサイトを立ち上げたという流れです。だからサイトにアップしている自分の写真は全部、D100と広角レンズで撮ったものですね。サイトを訪れた人にジャンクションの魅力を少しでも伝えられたらと考えています。

深夜に立体交差周辺をぐるーっと回る

―― 撮影ルールについて、「一般道も視野に入れて探し、写真は夜に下から撮る」とサイトで説明していますね。このルールに則った実際の撮影の流れを教えてください。

デンキ まずはジャンクションを探します。昔は航空写真を使ったカーナビでチェックしていましたが、今はGoogleマップですね。それで「だいたいこのヘンだな」と検討をつけていく感じです。条件に挙げたとおり、一般道も高速もリストアップしますね。ジャンクションを見つけたら、ちゃんと立体交差が撮れるかシミュレーションして目星をつけます。やはり、カーブがしっかり見えないと嫌なので、全体的に湾岸が多くなる傾向ですね。ビルを縫って走る梅田ジャンクションはマニアの間で有名なんですが、撮影時にどうしてもビルが邪魔になってしまうので、僕は好きじゃないんですよ。

―― そして夜になったら出かけると。

デンキ そうですね。撮影自体は0時~1時という場合が多いのでそれにあわせて。ジャンクション付近に来たら停車して、そこから歩いて周囲をぐるーっと回りながら、いい撮影ポイントがあったら三脚を置いてシャッターを切っていく。周囲がひらけているとけっこう時間がかかりますが、撮れる写真も増えて20~30枚くらいになりますね。いいポイントを探しながら歩くのが楽しいんですよ。

 それで自宅に戻って、サイトに載せる写真を厳選する流れです。現地でいい景色でも、写真ではカーブが重なってなかったりして「これ面白くないな」と思うものもあるので、ここはじっくりやりますね。都会のど真ん中にあると、ここでビルが入ったりしてふるいから落ちるものが増えるんですよ。だから、ジャンクション初心者の方には湾岸から攻めることをすすめています。

サイト内の「ごあいさつ」ページで、自身の撮影ルールを解説している。夜の理由は「キレイで未来的」に撮れて「人や車も少ない」から。下から撮るのは「迫力が違う」からだ

―― そうして厳選した写真とサイトの色使いがマッチしているのも統一感があっていいですね。そこにもこだわりはありますか?

デンキ 色の統一感は出るように意識していますね。撮影するときはホワイトバランスを「電球」にしているので、全体的にちょっと青みがかるんですね。それをさらにレタッチして、空の濃紺と高架のオレンジ色が際立つようにしています。サイトではとにかく写真を見てもらいたいんですよ。なので、背景は黒一色。文字は極力少なくして、フォントの色も写真にあわせてオレンジにしています。

―― 2002年頃はHTMLの手打ちのサイトが多く、その中で一際見栄えしていました。なにかデザイン系の技術を持っていたんですか?

デンキ 特にはないですが、営業職の前は同じ会社で広告を作ったりしていていました。その経験が生きていると思う部分もあります。当時仕事でチラシを作っているときも、文字をたくさん入れ込みすぎて、上司に「誰が読むねんこんなん!」と怒られたりしましたから(笑)。

 あと、とにかく更新の手間を減らすように作ったのも、全体の統一感に一役買っていると思います。撮影に行ったらすぐにアップできるように、ベースの部分のコピーを繰り返すだけで作ったんですよ。自分がさわりやすいということは相手も見やすいだろう、というのもあるんですよね。

各立体交差ページは、サムネイルスペースを余白込みで作っている。文章が目立ちすぎるを防ぐため、文字の大きさもほとんど変えない

大山さんの「日本ジャンクション公団」でアイデンティティを再確認

―― では、サイトの変遷について教えてください。開始した2002年頃はまだ建造物ブームが起きていませんが、最初の頃の反応はどうでしたか?

デンキ うーん、立体交差についての反響は基本的にないですね(笑)。特に、最初のころはもとから好きだった工場風景や昆虫、植物などの写真も一緒に載せていたんですよ。むしろ、それらのほうが反響を多くいただきましたね。だから、見に来てくれる人も、ジャンクション好きというよりカメラ好きの人が中心だったと思います。

―― 現在は立体交差写真のみに絞っていますね。

デンキ トリガーになったのは、「住宅都市整理公団」の大山顕さん(関連記事)でした。2008年頃に大山さんが「日本ジャンクション公団」を始められたんですが、立ち上げた理由について、どこかで「ジャンクション好きは多いけど、ジャンクションを取り上げているホームページはとくにないよね。だから作りました」と話されているのを読んだんですよ。その瞬間、「ちょっと待って!」と(笑)。「僕もやっていますけど……」みたいなメールを送ろうとしたんですが、すぐに「いや、これ僕がブレてるわ」と思い立ったんです。立体交差中心といいつつ、全然中心になってないなと。

 それで、昆虫や植物の写真を見てもらえるのも嬉しいけど、やはり最初のコンセプトどおりに立体交差で勝負すべきだと決意して、他の写真は全部削除しました。

大山氏が運営する「日本ジャンクション公団」。トリガーとなったエピソード以降、ジャンクション関連イベント等を通して、現在まで続く交流が育まれているという

―― なるほど。それで、昆虫や植物などは「立体交差以外中心」に移したわけですね。

デンキ いえ、最初は完全に削除するつもりだったんですよ。そう決意したわけですから。ただ、以前の読者さんから「あの写真はどこに行ったんですか?」「あの写真が見たいです」といった声がけっこう出てきたので、削除から半年くらい経った頃にしぶしぶ「以外」を立ち上げたという感じです。もちろん、反響をいただけるのは嬉しいんですけど、僕の決意が揺らぐのが怖かったんですよね。ただ、今でもコメントをいただくことが多いのは「以外」のほうだったりします(笑)。

―― 建造物ブームが起きた2007~2008年頃でも、ジャンクションの反響は少なかったんですか?

デンキ 掲示板の書き込みはそれほどでもなかったですが、確かにアクセス数は増えましたね。他の写真を別に移したこともあって、まれにですが「ここにいいジャンクション、ありますよ」といったお便りをいただけるようにもなりました。それはとても嬉しいことなんですが、やはり、ジャンクション好きな人のなかでも好みが分かれるんですよね。「ここのジャンクションのカオスっぷりが最高です」と言われても、それを表現する写真は僕では撮れないという複雑な気持ちが出るわけです。僕はカーブのきれいなところを求めているので、このあたりは本当に面白くもあり、申し訳なくもあるところです。

姉妹サイトの「立体交差以外中心」。工場や昆虫、植物などの写真を掲載している。昆虫の接写については「昔から僕がカメラを構えても虫が逃げないんですよね。たぶん殺気がないからだと思います」とのことで、かなり得意という。逆に、苦手なのは人物写真。「風景や建造物ばっかり撮っているので、人をどうきれいに撮るかというのは全然分からないままです」とのこと

「日本にはもう撮るところがなくなったね」が目標

―― 今後の目標を教えてください。

デンキ とりあえず続けることですね。自分のペースで自分がいいと思った写真をアップしてというのを続けて、いつか「日本にはもう撮るところがなくなったね」と言ってみたいです。ただ、日本中のジャンクションを網羅するというわけではなく、自分の感性にあった立体交差を制覇したいというちょっと曖昧なものですけど。とりあえず「自分の感性にあった立体交差はすべて見た」と、言い訳できるくらいにはなってみたいですね。

―― では、相当先まで更新は続けていくわけですね。

デンキ 自分としては、珍しく長続きしている趣味なので、途中で飽きることはないという気はします。しかも、同じ場所に何度も行ったりするので、死ぬまでかかるでしょうね(笑)。

 長くやっていると、だんだん目が肥えてくるんですよ。すでに撮影したジャンクションでも、「あの角度で撮れば良かった」「この写真をもっとこうすれば、より良くなるんじゃないか」と思ったりするわけです。それで何度も同じ場所に足を運んだりするので、まあ、一生の付き合いになるのかなと。

六甲アイランド北 出入口。現在は阪神高速道路5号湾岸線の終点となっているが、将来延長される可能性を残している

―― 同じ場所でも、行くたびに新たな発見があると。

デンキ そうですね。同じジャンクションでも数年経つと景色が変わっていることはよくあるんです。最初に撮ったときはビルが邪魔だったのにそれがなくなっているだとか、周辺に街路樹が植えられてちょっと違った雰囲気になっているだとか。だから、まったく同じアングルでも違う写真になりますし、思い描いた角度で撮ってみると、さらに別の雰囲気が出るという感じですね。

 あと、立体交差自体が変化する場合もあります。延長する可能性を残した高架というのもけっこうあるので、たまにチェックするようにしています。代表的なのは「六甲アイランド北 出入口」ですが、途中でパツンと切れている高架があるんですよ。あれはきっと、新たな高架の計画を前提にしたんだと思いますが、10何年もそのままになっています。いつか景気がよくなったら、新たな立体交差が拝めると期待しているんですよ(笑)。

―― 土木工事は景気との関係が深いですからね。本当、景気がよくなるといいですよね(笑)。

デンキ そうですね。弾けない程度に(笑)。

長期の休暇が取れたら「まずは九州と関東を回ってみたいです」という。また、海外のジャンクションにも興味を持っていると嬉しそうに語っていた



筆者紹介──古田雄介


古田雄介

 元建設現場監督&元葬儀業者&現古銭マニア&毎週仕事で秋葉原と都内量販店に足繁く通う毎日を送る現デジタルライター。「古田雄介のブログ」ではみなさんのお勧めサイトを募集中です。




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