市場創出を果たせるか、韓国勢も
だが、リチウムイオン電池事業に課題がないわけではない。
先にも触れたように、住之江工場の稼働に際しては、当初は、月産1000万個の規模で開始。市場の状況をみながら拡張するという慎重なものとなっている。また、第2期工場も、市場動向をみた上で決定するとし、当初の2011年に稼働という計画は事実上棚上げになっている。
当初の計画に比べて減速感があるのは景気動向も影響しているが、その一方で、「これまでの発想では思いつかないような、新たな市場を創出することも必要。社内に向けては、これまでの発想を転換して、リチウムイオン電池を活用できる新たな市場を模索するように激をとばしている」というように、市場創出による需要喚起も大切だろう。
一方で、韓国メーカーや中国メーカーの追い上げも気になるところだ。
2009年12月にパナソニックグループ入りし、リチウムイオン電池を事業の柱の一つとしてきた三洋電機の本間充取締役副社長は、「電池事業は、日本のお家芸として先行したものの、昨今では中韓のメーカーが迫っており、危機的な状況にある」と指摘する。
パナソニック エナジー社の野口社長も異口同音に、「これまでは日本が先行してきたが、韓国勢の追い上げが急になっている」とする。だが、「電池は複雑な化学反応があり、ノウハウは一朝一夕にできるものではない」と、住之江工場の生産体制の確立とともに、パナソニックの優位性が発揮できるとも自信を見せる。
さらに、パナソニックの竹花豊常務役員は、「住之江の新工場は、パナソニックのエナジー事業の拡大において、大きな武器になる。そして、三洋電機とのコラボレーションは、もうひとつの大きな武器になるだろう。パナソニックグループ全体の力を生かすことで、世界に冠たる環境革新企業を目指していきたい」と語る。
住之江工場の稼働は、日本のリチウムイオン電池事業全体の拡大においても、大きな意味を持つものになる。いかに早く、第1期生産ラインの増設、第2期の着工および稼働に結びつけることができるかが鍵になる。
三洋電機の本間副社長も、「世界最先端の住之江工場の竣工は、日本の電池工業においても、勇気を与えてくれるものになり、電池事業拡大のためのフラッグシップになる」と語るものの、「第1期のフル稼働までに1年以上かかるようだと、儲からない工場になってしまうだろう」とする。
「器」はできあがった。あとは市場動向にあわせて、迅速にキャッチアップできるか。そして、次の市場をいかに創出できるかにかかっている。
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