ガラパゴス化の原因は周波数だ
もちろんこういう論争には、各業界の立場がからむので、誰の主張が正しいかは即断できないが、中立の立場である夏野 剛氏(元NTTドコモ執行役員、iモードの立ち上げメンバーの1人)は、「アゴラ」で次のようにのべている:
日本の「ガラパゴス化」と言われるときに、多くの場合がアプリケーションの標準が違うとか、通信方式が独自だとかいう話になるが、実を言うと、周波数の違いというのが根本的なガラパゴス化の要因であることは意外に多く語られていない。 ~中略~ 日本で売られている携帯電話機は、方式としては同じであるにもかかわらず、欧州では2GHzの電波しか捕まえられない、つながりの悪い電話機になってしまうということだし、欧州の電話機は、日本で競争力を持つためには再び日本向けの調整や改造を行う必要がある。
海外でもアプリケーションは各国バラバラであり、ビジネスモデルも統一されているわけではない。それより重要なのは、中核部品である通信チップが共通に使えることなのだ。周波数が違うとチップばかりでなく、アンテナ、フィルターなど多くの部品を別に設計しなければならない。これから縮小してゆく日本市場に、世界の大手メーカーが対応してくれるかどうかはわからない。むしろ多様なサービスが競争するためにも、海外の端末が日本に参入でき、その逆も可能になるように周波数を統一することが重要だ。
しかもITSやFPUを他の帯域に移せば、もっと広い帯域をあけて海外と共通の端末が利用可能になる。他方、FCC(米連邦通信委員会)は、2020年までに500MHzの帯域を開放するという「全米ブロードバンド計画」を発表した。日本がここで既得権に遠慮して40MHz(上り下り合わせても80MHz)だけで「電波鎖国」すると、日本の無線サービスは大きな差をつけられるだろう。
今後の「クラウド」時代にあっては、すべての端末が常時ネットワークにつながっていることがITサービスの条件になる。Eメールのみならず、文書作成も読書もネットワーク経由で行なう時代がくるだろう。そのとき高速で安価な無線ネットワークが利用できるかどうかは、日本の経済力に影響を及ぼすといっても過言ではない。実際に運用開始される2012年7月まで、まだ2年半もある。総務省は結論を急がないで、グローバルな競争の中で日本のIT産業が生き残れるのかどうかを真剣に考えていただきたい。
この連載の記事
-
最終回
トピックス
日本のITはなぜ終わったのか -
第144回
トピックス
電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ -
第143回
トピックス
グーグルを動かしたスマートフォンの「特許バブル」 -
第142回
トピックス
アナログ放送終了はテレビの終わりの始まり -
第141回
トピックス
ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ -
第140回
トピックス
ビル・ゲイツのねらう原子力のイノベーション -
第139回
トピックス
電力産業は「第二のブロードバンド」になるか -
第138回
トピックス
原発事故で迷走する政府の情報管理 -
第137回
トピックス
大震災でわかった旧メディアと新メディアの使い道 -
第136回
トピックス
拝啓 NHK会長様 -
第135回
トピックス
新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む - この連載の一覧へ