既得権に阻まれる周波数の合理化
なぜ総務省は、このような奇妙な案を出してくるのだろうか。この背景には複雑な事情がある。700MHz帯で上り/下りをともに収容すると実効的な周波数はその半分になるので、全体で40MHzでは上り下りで各20MHzしか取れない。これを3事業者で分けるとすると、1社あたり6MHzぐらいしか割り当てることができず、LTEのような高速通信には周波数が足りないのだ。
しかし現実には周波数はもっとある。710~730MHzに割り当てられているITS(高度道路交通システム)は、車の衝突を防ぐ「車車間通信」に割り当てられる予定だが、ここを使うメーカーは少なく、将来普及する見通しはない。車車間通信で衝突を防ぐには双方の車に装備される必要があり、その確率が小さいと安全装置として意味をなさない。この割り当ては安倍政権のとき、自動車業界の政治的圧力で決まったと言われているが、今となっては自動車メーカーも扱いに困っている。
さらに770~806MHzは、私がパブリックコメントでも書いたように、ほとんど使われないFPU(テレビ中継)に割り当てられ、浪費されている。この両側の帯域を見直せば、710~806MHzの約100MHzが使え、上り下りの両方に割り当てても実効的に50MHzが取れる。これなら3社に割り当てても15MHz以上あるので高速通信にも使えるのだが、テレビ局が既得権を主張しているため、割り当てが変更できない。
一方700MHz帯には、地上デジタル放送との干渉という厄介な問題が指摘されている。これがどれほど実際の放送受信に影響するのかはっきりしないが、総務省の割り当て案でも発生する問題だ。いずれにせよ、一部の業界の既得権で電波の割り当てを決めるのではなく、オープンな議論によって合理的な割り当てを決めないと、携帯電話だけでなく日本のIT産業全体が沈没するだろう。
筆者紹介──池田信夫
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1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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