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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第100回

日本に必要なのは「労働者参加」ではなくリスクテイクだ

2010年01月13日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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IT産業を建て直すには
新しい企業のチャレンジが必要だ

 要するに民主党は、日本の直面している問題を逆に見ているのである。株主だけに企業のコントロール権を与えるべきかどうかについては長い論争があり、労働者の人的投資を守ることによって彼らが会社のために働くインセンティブを強める効果もある。しかしこの意味での労働者の権利は、日本ではすでに非常に強い。経営者がほとんど内部昇進の「従業員代表」であり、株式の大部分も持ち合いで他の企業(のサラリーマン経営者)が所有しているので、現状でも一種の労働者管理企業だといってもよい。

 他方、日本の企業が株主を軽視し、株主資本利益率(ROE)が欧米の半分以下であるなど、その資本効率の低さを指摘する声は内外ともに強い。日本での企業買収は全世界のわずか2.5%で、対内直接投資もGDPの2%程度と、先進国で際立って少ない。これを是正するには、むしろ株主の権利を保護して、企業買収や海外からの投資を促進する制度改革が必要である。

 これは沈滞している日本のIT産業を活性化する上でも重要だ。率直にいって、既存のITゼネコンやその下請けから画期的なイノベーションが出てくる可能性はまずない。世界のITをリードしているのは、グーグルやアップルなどの若い企業だが、日本のIT企業はたとえばソニーでも64歳。もう老年期である。人間と同じで、企業も年をとるとリスクの高い事業はできなくなり、画期的なイノベーションは起こりにくい。

 それは「日本的風土」に合わないなどという向きもあるが、1950年代の開業率は20%を超えて廃業率も15%を超え、そのころ生まれたソニーやホンダが、現在の日本の中核企業になっている。高度成長を支えたのは、こうした新陳代謝だったのである。開業率の低下と成長率の低下は、ほぼパラレルに起こっている。日本経済が立ち直るためには、新しい企業や外資の投資を促進し、もっとリスクを取るしくみを整備することが不可欠である。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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