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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第47回

さまようソニーはどこへ行くのか?

2008年12月16日 19時03分更新

文● 池田信夫/経済学者

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持続的イノベーションの罠


 最大の失敗は、プレイステーション3だ。これは単独では赤字になるのを覚悟の上で、CPU(中央演算装置)「セル」を外販することで採算をとろうという冒険的なビジネスモデルだったが、大失敗に終わり、かつてソニーの稼ぎ頭だったゲーム部門の赤字が、ソニー全体の業績の足を引っ張っている。

 既存の技術を高品質・高価格化する持続的イノベーション は、3代目以降は成功しないというのが経験則だ。DVDの成功体験を再現しようとしたブルーレイディスクも持続的イノベーションだが、いまだに黒字にならない。巨額の投資を行なった液晶パネルも、競争の激化で赤字だ。こうした失敗の原因は、コモディティ化を恐れるあまり高級品に特化したことだ。いま最も急速に成長している新興国は、低価格のコモディティ市場なのである。



「帝国建設」をやめてイノベーターに戻れ


 ソニーの株価が低迷するのは、こうした無意味な規模拡大路線が是正されないからだ。株主にとって重要なのは株主資本利益率であり、企業の規模ではない。ここ20年のソニーの経営は、規模を拡大して資本効率を下げる帝国建設だったといわざるをえない。その結果、ソニーの原点だったイノベーションが失われ、「普通の会社」になってしまった。

 かつてのソニーは、トランジスタラジオやウォークマンなどの破壊的イノベーションによって欧米の電機メーカーを打倒した。アップルの創業者スティーブ・ジョブズが、ソニーを訪ねたとき、盛田からもらった初代のウォークマンをその場で分解し、ひとつひとつの部品を見ていたという。かつてのソニーは、あのジョブズを脱帽させるイノベーターだったのだ。この機会に水ぶくれした組織や子会社を整理し、盛田のイノベーター精神に立ち返ることが、ソニー再建の鍵である。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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