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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第46回

薬のネット販売規制で得するのは誰か?

2008年12月09日 19時30分更新

文● 池田信夫/経済学者

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最大の効果は競争制限


 間違いなく起こる変化は、競争が制限されることだ。ガスター10(12錠)の希望小売価格は1659円(税込)だが、ネット販売なら最低1313円、ジェネリック(代用)薬なら10錠で879円だ。安売りチェーンならこれに近い価格で買えるが、そういう店は都市部にしかない。つまりこの規制の最大の効果は、地方の薬局をネット販売との競争から守ることなのだ。

 日本薬剤師会など9団体は11月28日、「医薬品は対面販売が原則で、ネットによる販売は禁止すべきである」とする共同声明を発表した。こうした団体は、すべて厚労省の利害関係者である。特に日本薬剤師会は厚労省から常務理事を天下りで受け入れ、参議院議員も出す自民党の集票基盤の一つだ。



消費者中心の社会は自己責任


 私はネット販売のリスクがゼロだと言っているのではない。普通の薬局で売っても、リスクはゼロにはならない。問題はリスクをゼロにすることではなく、利便性と安全のバランスを考えて消費者自身が選択することだ。ネット販売を規制してもリスクが減る効果は期待できない一方、競争制限によって価格が上がり、消費者が不便になる効果は明らかだ。

 ところが消費者団体など24団体も、ネット販売の全面禁止を求める要望書を厚労相に提出した。彼らはこれまでも、個人情報保護法や貸金業法などの規制強化を要求して「官製不況」を作り出してきた。薬害被害者団体は「大衆薬でも薬害が起きる」というが、問題は薬にあるのだから、ネットを規制しても解決にはならない。何か事件が起こると、すぐ「行政が規制しろ」と騒ぐメディアにも責任がある。

 このコラムの第1回でも書いたように、日本社会には根深くしみついた家父長主義がある。これを克服し、役所ではなく消費者が主体の社会にすることが「消費者行政」の意味だ。そこでは消費者が判断し、その責任も自ら負うことが原則だ。問題が起きたら政府の責任にし、「消費者庁」を苦情処理機関にするのでは家父長主義は変わらない。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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