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松村太郎の「ケータイが語る、ミクロな魅力」 第28回

電話に出て! 通話前の駆け引き「着デコ」

2008年06月19日 11時00分更新

文● 松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

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近場の「同士」とのコミュニケーションを作る


 これをもっと意味のあるアドホックなコミュニケーション作りに生かそうとしているのが、ノキアが無料で配布しているシンビアンOS用のアプリ「Sensor」である。

 ケータイでSensorを起動しているユーザーを探して、Bluetoothでメッセージのやりとりやファイルの交換ができるという仕組みだ。10m程度というBluetoothの電波到達距離を利用して、「場所」というコンテクストを共有している人同士をつなげないか、というトライである。

ノキアが「Sensor」のページで公開しているFlash。近くにいるSensorユーザーにメッセージを送ったりできる

 また先日、アップルが開催した開発者向けイベント「WWDC 2008」の基調講演において、iPhone SDKのデモがあった。ここでもiPhoneの位置情報APIと電話帳データベースを連携させ、「10マイル(約16km)以内にいる友人を探す」というアプリが紹介されていた。

 16kmという距離がいかにもクルマ社会の米国っぽいが、400マイルなら今からすぐにあうことは難しいだろう(それでもケータイの通話は距離に関係なくつながる)。位置情報というコンテクストを元にコミュニケーションを取り始めれば、30分後に直接会えるかもしれない、というリアルなコミュニケーションの前の駆け引きを助けてくれる。



「いつでもどこでも」の次へ


 このように、電話に出てもらうための通話前のアピール、今隣のテーブルにいる人とのアドホックなやりとり、そしてこれから会って話せるかどうかを知る手段を紹介してきた。

 今回の話を考えていたときに僕が思ったことは、われわれはケータイのコミュニケーションのメリットである「いつでもどこでも人とつながることができる」点を十分享受し終わったのかもしれない、ということだ。

 当たり前のように着信をその場で無視する様子は端から見ていて多少心が痛む瞬間でもあるが、「いつでもどこでも」つながるメリットを自分の都合に合わせて制限しているようにも映る。そのフィルターをかいくぐり、電話に出てもらうために通話前における駆け引きのツールが提案された。

 一方で「いつでもどこでも」ではなく、「すぐ近くの人」あるいは「これからすぐに話しうる人」に対するコミュニケーションという基軸が模索されている。

 特に、2008年は北京オリンピックがあり、2010年にはワールドカップサッカーが南アフリカで開かれる。当然ビジネスエリアのシフトも起きるし、ジェットで飛び回る人もさらに増えていきそうだ。そうしたときにキーになるのは、自分が今どこにいるか、誰と会えそうか、何ができそうか、ということ。

 楽しいコミュニケーションへの期待値という意味で、自分が持っている位置エネルギーをどう生かせるかを示してくれるのが、ケータイがリーチしようとしている「いつでも、どこでも」の次の概念であると思っている。


筆者紹介──松村太郎


ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET



*次回は6月26日掲載予定


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